映画評 「A FISTFUL OF FINGERS」鑑賞 こんど新作「ベイビー・ドライバー」(傑作!)が公開されるエドガー・ライトの1995年のデビュー作。そう、「ショーン・オブ・ザ・デッド」の9年前に1本撮っていたのだよ(この前にも「Dead Right」という短編を作っているらしい)。 当時は劇場1館だけで公開されたという超低予算作品で、DVD化もされてないので幻の作品かな…と思っていたらググったらすぐに動画が見つかった。アップしたの誰だ。なお上の画像に「20周年」とあるように、こないだLAで20周年記念の上映があったとか。 内容は題名から分かるようにセルジオ・レオーネあたりのマカロニ・ウェスタンのパロディとなっていて、さすらいのガンマンが自分の愛馬を殺した悪党を追い詰める、というのがざっくりとしたプロット。でもコメディなので話は脱線しまくってるけどね。 監督が友達を総動員して作ったアマチュア映画なので、出てくるインディアンやメキシコ人は顔に色を塗った白人だし、馬は自分の足で動かす木馬。ならず者たちの酒場は近所のパブで、西部の荒野は郊外の森あたりで撮ったんだろうなあ、というのがよく分かる。 話もしょーもないギャグが次から次へと繰
映画評 「ザ・デイ・アフター」鑑賞 広島の原爆記念日に触発されたわけではないけど、かつて社会現象を巻き起こした作品なのに観たことなかったな、と思いyoutubeにあがってた低画質のものをチマチマと観る。 ウィキペディアにも日本語版記事があるので詳細はそっちを見てもらうとして、冷戦の緊迫状態にあった1983年に、アメリカとソ連との核戦争、およびその結果を描いたTVムービー。エクスプロイテーション的な内容ではなくて、当時はその生々しさが話題になって高視聴率を稼ぎ、なんと現在においてもアメリカ史上で最も視聴されたTVムービーなんだとか?日本でも当時は大きく話題になってましたね。126分とTVムービーにしては長尺だが、原爆が落ちてからの後半はCMなしで放送されたのか。 話はカンサスを舞台に、医者とその家族、結婚式を控えた娘のいる家族、基地に派遣された軍人たちの日常生活が、東西ベルリンにおける米ソの軍事衝突を境に緊迫感が高まっていき、やがて核ミサイルに襲撃され、廃墟となった土地で生きるさまが描かれていく。 なんでカンサスかというと核ミサイルの基地があるので軍事的なターゲットになっているそうな。アメリカ各地にも核ミサイルが落
映画評 「エンドレス・ポエトリー」鑑賞 原題「Poesía Sin Fin」で、アレハンドロ・ホドロフスキーの新作。2年くらい前にクラウドファウンディングで製作費を募っておりまして、25ドルほど出資したのでございます。それで5月くらいに作品は完成してダウンロード可能になってたんだけど、不親切にも英語字幕が提供されてないので鑑賞できず、仕方なしにネット上に転がってた字幕ファイルとあわせて観るはめに。でも字幕のタイミングがずれまくってたうえにフランス語の会話の部分がぜんぶ抜けてたな。字幕が提供されてないのは欧米の出資者にも不満が出ているようだし、そのあと出資者に提供されたサントラのダウンロードもアメリカ国内でのみ可能と、どうも今回のクラウドファウンディングはアフターケアがいまいちのようでしたね。日本での試写イベントに招かれる権利はあるんだろうか(もう行われた?)。 内容は完全に前作「リアリティのダンス」の続編で、同じ役者が演じるホドロフスキー一家がチリのサンティアゴに移住してきたところから話は始まる。父が経営する商店を手伝いながら、医者になることを強制されるアレハンドロ少年だったが、本人の夢は詩人になることであった。そして青
映画評 2017年上半期映画ベスト10 ブログで取り上げない作品(試写会で観たため)が増えてきたので、年末への備忘のために書いておく。順不同。 ・LOGAN/ローガン ・メッセージ ・グレート・ウォール ・ムーンライト ・トレインスポッティング2 ・レゴバットマン ザ・ムービー ・ディストピア パンドラの少女 ・ジェーン・ドウの解剖 ・スパイダーマン ホームカミング ・ベイビー・ドライバー 「ワンダーウーマン」はまだ観てません。「ガーディアンズ2」は及第点。「沈黙」はどこかの阿呆が冒頭に映画館でケンカはじめて、雰囲気をマズくしたのが残念であった。
映画評 「CATFIGHT」鑑賞 日本でも来月映画祭で公開されるのかな?題名から若き女性が下着姿でくんずほぐれつするような内容を期待してはいけないよ。中年のオバハンふたりが殴り合うという映画。 ニューヨークの裕福な家庭に暮らすベロニカは、パーティーの場でバーテンダーとして働くアシュリーに再開する。かつて二人は同級生だったのが疎遠になり、アシュリーは画家を目指しながら貧乏暮らしをしていたのだ。身分の違う二人の会話はすぐにぎこちないものとなり、二人だけになった場では些細なことから殴り合いになってしまう。アシュリーのパンチをくらって階段から転げ落ちたベロニカは昏睡状態になり、2年間も病院で眠ることに。そして目を覚ました時、彼女は財産を失って無一文担っており、逆にアシュリーは絵画の腕前が評価されて売れっ子のアーティストになっていた…というあらすじ。 ベロニカ役にサンドラ・オー、アシュリー役にアン・ヘッシュ。助演にアリシア・シルバーストーンで、あとはディラン・ベイカーとかピーター・ジェイコブソンなんかが拘束時間半日といった感じでちょっと出演してます。 ストーリー的にはこの後アシュリーも痛い目に遭うわけですが、なんか中身が
映画評 「ディストピア パンドラの少女」鑑賞 原題は「The Girl with All the Gifts」で日本では7月公開。これマイク・ケアリーの小説が原作なのですね。ケアリーといえばコミックのライターとしてDC/ヴァーティゴの「ルシファー」のストーリーを担当してたり、ファンのあいだでは評価の低いポール・ジェンキンズのあとを継いで「ヘルブレイザー」を担当して人気を復活させたという人だが、俺はそんなに作品を読んだことがないかな。以降はネタバレ注意。 舞台となるのは近未来。謎の真菌類が世界中に蔓延し、それに感染した人々はゾンビ化して生身の人間の肉を喰らう怪物となっていた。生き残った少数の人間は軍事基地に避難してゾンビの侵攻に耐えていたが、ゾンビ化した母親から生まれた子供たちは、人肉への食欲を持ちながらも、高い知性と学習能力を備えていることが判明し、彼らを用いてゾンビ化に対するワクチンの研究が進められていた。子供たちの中でも特に高い知性を示した少女メラニーは教師のヘレンと仲良くなるものの、基地がゾンビたちによって陥落。メラニーとヘレンはワクチンを研究していた博士や数人の兵士とともに基地を脱出し、他の基地に合流しようとゾンビたち
映画評 「RAW」鑑賞 フランスの若手女性監督によるホラー映画。 厳格なベジタリアンの家庭に育った少女ジャスティーンは、かつて両親が学び、そして姉も学んでいる全寮制の獣医大学へと入学する。そこで彼女は新入生に対する上級生からの熾烈な入学の儀式を体験させられ、その一環としてウサギの肝臓を食べさせられるのだった。初めて肉の味を経験した彼女は全身に湿疹ができるものの、肉に対する強烈な食欲を感じるようになる。さらにゲイの男性であるルームメイトにも性的な興味を抱くようになり…というあらすじ。 トロント映画祭では上映中に失神者が出たとかで話題になったが、そこまでグロい描写はないかな。思春期を迎えたオクテの少女が、自らの内側に潜んだ欲望を露わにするとともに肉体的な変化を遂げていく、という「キャリー」や「ブラック・スワン」に通じるアート系のホラーといったところ。フランス映画ということもあり「顔のない眼」に近いものを感じました。 監督はしれっとインタビューで「これホラーというよりコメディだから」とか言ってるけど、音楽の使い方がそんな感じだったかな。過激なシーンにちょっと軽快な音楽がかかるところとか。 (ほぼ)新人俳優
映画評 「エイリアン:コヴェナント」鑑賞 こないだアメリカで観てきたのだよ。当然以下はネタバレがあるので注意。注意! ・「オデッセイ」では故郷を遠く離れた宇宙飛行士が生存のために奮闘するさまを描いたリドリー・スコットが今回もまた、故郷を遠く離れた宇宙飛行士たちが生存のために奮闘するさまを描いている。違いはこちらの奮闘がすべて徒労に終わり、彼らがブチブチと殺されていくところだが。 ・前半は「プロメテウス」っぽくて後半は「エイリアン」になってくるといったところか。全体的には闇スコットによる宇宙版「悪の法則」という感じですけどね。後ろですべてを操ってる存在の手中に、皆がズブズブとはまっていくのですもの。 ・「プロメテウス」観た人も短編映像「Last Supper」と「The Crossing」は事前に観ておいたほうが良いと思う。後者はネタバレ気味だが話を補完するのに重要なので。 ・「プロメテウス」は異星人・異生物の生態系が完全に意味不明でしたが: 今回はより「エイリアン」に近づいた生物(?)考証になっているかな。それでもチートっぽい展開があるけど。 ・キャストは前作に続いてマイケル・ファスベンダーがアンドロイド役を
映画評 機内で観た映画2017 またアメリカ出張に行ってたので、飛行機のなかで観た映画の感想をざっと: 「シング」:まー無難でいいアニメじゃないですかー。悪くはないんだけど内容をほとんど覚えてない。最後は出演者みんなの合唱で盛り上げた方が良かったような。 「モアナと伝説の海」:前も書いたけど、主人公が「選ばれし者」という設定は嫌いなのよな。海があれだけ手助けしてくれるのなら、マウイと組む必要なかったんじゃないの。「ズートピア」より明らかに出来が悪い。あとニワトリよりブタのほうが可愛いです。 「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」:これ脚本はロバート・シーゲルか。伝記映画だけどなんか無駄な部分が多いような。フランク・ターナーの部分とかカットして、レイ・クロックとマクドナルド兄弟の確執に集中した方がいいのに。頭脳派のマクドナルド弟を演じるニック・オファーマンが相変わらず怪気炎を上げていて、彼って観るたびにどんどんいい役者になっている気がする。 「ミス・スローン」:ジェシカ・チャステインが切れ者ロビイストを演じる内容だが、銃規制の法案をテーマにしているのかと思いきや(実際、銃団体から映画への反対運動があったらし
映画評 「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」鑑賞 上映中なので感想を簡潔に。いちおうネタバレ注意。 ・前作は宇宙のならず者たちが違いや偏見を超えて結束していき、官僚主義のノヴァ・コーズにも頼りにされるという展開が痛快だったが、今回はすでにチームが出来上がっているので、じゃあ今回のテーマは何かというと「家族」である。スターロードことピーター・クイルの父親が登場し、ガモラとネビュラの姉妹の葛藤とかが描かれていく。 ・そのなかで登場人物たちの過去が説明されていくわけだが、前作に比べて主人公たちに切羽詰まった危機感がないので、特に中盤は間延びした印象を受けたかな。主人公が「ここで幸せに暮らせるぞ!」と言われてもそんな展開になりっこないことは観客には分かってるわけで、もっと話に緊迫感をもたせても良かったんじゃないの。 ・エゴやマンティスといった新しいキャラクターが登場するほか、ネビュラが主人公たちを行動を共にするので登場人物が増えているのだけど、話が雑多になるのを防ぐために彼らを二手に分けてしまうわけですね。そこで片方は視察、片方はお留守番と別々の目的を与えたので、そこで話のスピードがガクンと落ちてしまう。例えば「スター・トレック BE
映画評 「ジェーン・ドウの解剖」鑑賞 いわゆる密室型のホラーで、原題は「The Autopsy of Jane Doe」。5月20日から日本公開。以降はネタバレ注意。 小さな街の一軒家において住人が惨殺されるという不可解な事件が起き、さらには地下室から地面に埋まった形で全裸の若き女性の死体が発見される。この女性の死因を調べるために、死体は親子で検視医を営むトミーとオースティンのもとに運ばれ、身元不明の遺体につけられる「ジェーン・ドウ」の名前で呼ばれることになる。ジェーン・ドウの体は死亡してから時間が経っている兆候がある一方で、死後硬直などが起きておらず、その奇妙さに頭をひねるトミーとオースティン。さらに解剖を進めるうちに謎めいた痕跡をいくつも発見する二人だったが、それにあわせて彼らの周囲にも不気味な現象が起き始め…というあらすじ。 スプラッター系というよりも心理的なホラーだが、題名のごとく死体がザクザク切り刻まれて解剖されていく内容なので当然ながら血みどろの描写が多く、そういうのが苦手な人は気をつけましょうね。外見上は傷のない遺体を解剖するうちに数々の謎が浮かび上がってくる、という展開は『CSI:科学捜査班』とか『羊
映画評 「PATTERSON」鑑賞 ジム・ジャームッシュの新作。日本では「パターソン」の邦題で8月公開かな? 舞台となるのはニュージャージーのパターソンという街。主人公のパターソン(街の名前と同じだね、というツッコミが劇中でも入る)はバスの運転手をして暮らしており、毎朝早く起きてバスを運転し、夕食には妻と愛犬の待つ自宅へ帰る、という生活を繰り返していた。そんな彼の隠れた情熱は詩を書くことで、同じくパターソンに住んでいた詩人のウィリアム・カーロス・ウィリアムズに憧れながら、自分が目にして経験する物事について詩をノートに綴っていくのだった…というあらすじ。 ジャームッシュの前作「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」はファンタジーというかサスペンス性が強い内容だったが、こちらは一転して日常系の物語。パターソンの月曜から日曜までの1週間を切り出し、彼の淡々とした生活を描いている。事件というかトラブルも発生するものの、あまり影響が出ずにそのまま人生が続いていく感じ。あとは乗客の会話に耳を傾ける運転手、という点では「ナイト・オンザ・プラネット」に通じるものがあるかな。 主人公のパターソンは暇さえあれば詩を綴っている人物だ
映画評 「T2 トレインスポッティング」鑑賞 前作は劇場で2回観て、原作もクッソ読みづらい原書で読んだし(「ポルノ」は読んでない)、舞台版も見に行った。それくらい思い入れのある映画であったので、果たしてこの続編が期待に応えることができるかについてはそれなりの不安を抱いていたわけですね。海外での評判もいまいちだったようだし。 んで結論から言いますと、十分に楽しめる良作であった。もちろん前作ほどのキレというか疾走感は無いよ。あちらはボンクラがカタギの生活をしようと努力するエネルギーに満ちていたのに対し、こちらは中年にさしかかって人生の壁にぶつかった男たちが右往左往する話なのだから。でもそれが自分のような主役たちと同い年の者にとっては非常に親身に感じられるわけですね。公開週なのに劇場ガラガラだったけど、これもっと若い人が観たらどう感じるだろう。 20年の時を経て、登場人物も役者たちもみんな年をとっている。ユアン・マクレガーこそ未だに童顔であるものの、他の人物たちは髪が薄くなったり、丸っこい体型になっていた。30代でホグワーツの女学生を演じていたシャーリー・ヘンダーソンも(前作に出てないけど)さすがに老けてきている。そして彼らは結婚
映画評 「レゴバットマン ザ・ムービー」鑑賞 ADHDの人向けに作られてるかのごとく、カラフルな画面と怒濤の如きギャグの展開に圧倒されますが、かなり楽しめる作品。 前作の「LEGO ムービー」、いや失礼、「LEGO® ムービー」は後半の意外なメタな展開におおっ!となった秀作でしたが、こっちは映画のクレジットとかにメタなツッコミが入ったりはするものの、基本的にはバットマンの世界に話を置いている。コメディ映画なんだけどバットマンの孤独さに焦点をあて、彼にはなぜロビン(とその他の仲間)が必要なのか?という点をうまく解説した作品でありました。なんでバットマンのコスチュームに比べてロビンのものはあんなに派手なのか?というのはコミックでもきちんと説明されてない案件なのだが、それも冗談半分ながらうまく分析してましたね。 サイコなバットマンとパッパラパーなロビンの組み合わせという点では、かの悪名高き「All Star Batman & Robin, the Boy Wonder」を彷彿とさせましたが、当然ながらあそこまでダークではなく、映画やテレビ版を含めたバットマンのフランチャイズの歴史に敬意を払った内容になっている。カイトマンとかカレン
映画評 「ハクソー・リッジ」鑑賞 良心的兵役拒否者でありながらも第二次世界大戦に参戦し、沖縄の激戦で多くの人命を救った衛生兵デスモンド・ドスの活躍を描いた、メル・ギブソンの久々の監督作品。以下ネタバレ注意。 内容はおおまかに3つのパートに分かれていて、前半は敬虔なセブンスデー・アドベンチスト教会の信者として育ったデスモンドが、信仰上の理由から人を殺めることを拒否し、家庭内での暴力を目撃した経験から銃を持つことまで拒みつつも、戦場で戦う人々のために貢献したいという思いから陸軍へ入隊志願する姿が描かれる。 銃を扱わないばかりかベジタリアンで肉を食べず、安息日は訓練をしないデスモンドは当然ながら上官や同僚に疎まれるわけで、トイレ掃除を命じられ、同僚たちにはリンチをくらう次第。でもね、これが旧日本軍だったら上官に体罰をくらって恐らく廃人になってますよ。というわけで日本人から見ると彼が受けてる仕打ちは意外と生ぬるかったりする。ついに彼の態度が問題視されて軍法会議にかけられるのだが、デスモンドの父親の尽力もあって彼は除隊を命じられず、銃を持たぬまま戦場へ赴くことを許される。こういうのがアメリカ軍の余裕ですかね。なおデスモンド
映画評 「ムーンライト」鑑賞 というわけで今年のアカデミー作品賞。いちおうネタバレ注意。 観る前はあらすじがアートハウス映画っぽくていまいち分りにくい印象を受けたものの、要するに黒人のBL映画であった。戯曲を原案にしたものらしいが、話の舞台となるマイアミのリバティーシティ出身であるバリー・ジェンキンス監督の実経験が強く反映された内容になっているみたい。 内容は3部構成になっていて、麻薬中毒者の母を持ち、幼いころからゲイだといじめを受けてきたシャイロン少年が、成長するにつれて自分のアイデンティティやセクシャリティについて向き合っていく姿を叙情的に描いたもの。 第1部が子供の頃の話で、ろくに親に養ってもらえず困窮していたところを麻薬売人のホアンに助けられ、彼が父親代わりになって育ててもらうという話。第2部がティーンの頃で、同級生にひどくいじめられながらも、自分のセクシャリティに目覚めていく内容、そして第3部が成人したシャイロンが学生時代の友人と再会するというもの。 何か派手なことが起きるというよりも、決して楽ではない日常の暮らしの部分を丁寧に描いているといった感じですかね。ここがすごい!という内容ではなく、シ
映画評 「ラ・ラ・ランド」鑑賞 ・おれジャズは苦手っす。 ・アカデミー賞で一悶着ありましたが、結果的に話題になったし劇場でヒットしてるし、良かったんじゃないですか。 ・全体的な感想としては、ミュージカルの入門編的な作りになっている作品かと。過去の作品のオマージュを散りばめながら、ビッグナンバーのところはしっかり派手に展開させて、恋愛に関するシーンは親密に撮って、能天気なミュージカルなどにはせずに緩急をつけて万人受けする内容に、巧みに仕上げている。 ・ただその一方で、皆が受け入れやすくするために作りをあまりにもベタにしてしまったのではないか、という印象は最後まで拭えなかった。カフェでバイトしてる女優志望とか伝統にこだわるミュージシャンなんて手垢のついた設定だし、歌が始まると周囲が暗くなるところとか、プラネタリウムでの演出はあまりにも型通りで興ざめしてしまった。デミアン・チャゼル、「セッション」のほうがもっとエッジの効いた演出してたよね。 ・「その予定が今日だったの、忘れていた!」という展開も1度なら許すよ、でも2度やるなよ!スマホでスケジュール管理してるなら、ちゃんと予定入れとけ! ・演出にくらべて撮影は確かに見事。
映画評 「FENCES」鑑賞 アカデミー4部門にノミネートされてる作品。 故オーガスト・ウィルソンの戯曲を映画化したもので、主演のデンゼル・ワシントンとヴィオラ・デイヴィスはブロードウェイで既に同じ役をやってるんですね。だからあんな長ったらしいセリフをスラスラ話していたのか。デンゼルは監督もやっていて、以前の監督作「アントワン・フィッシャー」はそんなに高い評価を得なかった覚えがあるが、この映画に前後して監督した「グレイズ・アナトミー」の1エピソードは絶賛されてたので、監督しての腕前も上がってるんでしょう。 話の50年代のピッツバーグ。ゴミの収集をして働くトロイは、かつてニグロリーグでの優秀な野球選手だったが、メジャーリーグが黒人を受け入れるようになった時には年をとりすぎており、プロで活躍できなかったことを悔やんでいる人物。彼の妻のローズは献身的な妻であり、一人息子のコーリーだけでなく、戦争で脳に障害を負ったトロイの弟や、トロイが結婚前につくった息子にも優しく接していた。そしてコーリーはフットボールの選手として成功をつかむ機会を手に入れるが、トロイはそのことを快く思わず…というようなあらすじ。 元が舞台劇のた
映画評 「グレートウォール」鑑賞 公開よりかなり前に試写で観た映画はこのブログで扱わないポリシーなのですが、これはいろいろバイアスかかって叩かれそうな気がするので、ざっと簡単に援護しておく。 アメリカよりも中国市場を狙った作品なのに中国本土での評判は良くなくて興収もパッとせず、先週末に公開されたアメリカでも興収が散々のようで、おまけに中国が舞台なのにマット・デーモンを主人公にするあたりは、白人中心のホワイトウォッシュではないかと批評されてるわけですね。まあここらへんは全部事実といえば事実だろう。 でもあまり深く考えずに観ればね、これ結構楽しめる作品でしたよ。「中国の万里の長城はモンスターを防ぐために建造された!」という中学生が考えそうなアイデア(だが原案はマックス・ブルックス)にかなりの製作費が費やされ、色彩を強調したチャン・イーモウの演出が加われば、悪くないに決まってるやん。モンスター襲来に備えて太鼓がドコドコうち鳴らされるシーンとか、観ててゾクゾクきますぜ。 主人公だってマット・デーモンでいいじゃん!知らない中国人役者が出てるよりいいだろ。中国人女優の景甜が容姿端麗で勇ましい女性指揮官を演じていて、ここらへ
映画評 「CAPTAIN FANTASTIC」鑑賞 日本では「はじまりへの旅」という題で4月1日に公開。なおエルトン・ジョンの同名のアルバムとは何も関係なし。 ベン・キャッシュは俗世間に幻滅し、人里離れた山奥に移って6人の子供たちと暮らし、サバイバルの技術と資本主義に頼らないものの考え方を教えていた。彼の妻のレスリーは病気療養のため実家に戻っていたのだが、改善せずに亡くなったとの連絡がベンのもとに届く。ベンのことを好ましく思っていないレスリーの両親は、彼を招かずにキリスト教の葬式を挙げようとするが、レスリーは仏教徒であり火葬を望んでいたことを知っているベンは、レスリーの遺体を取り返すため、おんぼろバスを運転して子供たちとともにレスリーの両親のもとに向かうのだった…というあらすじ。 2時間の尺のうち1時間がロードムービー、1時間が両親たちとのやりとりという内訳で、ニューエイジ・カルトの人たちが山から下りてきたというプロットのクリーシェが満載でお腹いっぱい。同年代の女の子たちを見てドギマギする思春期の長男とか、ゲームばっかりやってる都会のクソガキに対して博識を披露する末の子とか、保守的な養父母に接するにあたって空気の読めない行動を繰り
映画評 「ドクター・ストレンジ」鑑賞 感想をざっと。 ・個人的な偏見で言わせてもらうと、そもそもドクター・ストレンジって映画で主役はれるキャラクターではないのである。コミックでもスティーブ・ディトコが描いていた60年代の最初期こそはディトコのサイケなデザインと当時のニューエイジ文化がうまくマッチして彼を人気キャラクターにのし上げたものの、それ以降は主役のシリーズがあっても、いまいちトップクラスのスーパーヒーローにはなれなかったような。DCコミックスの魔法キャラはアラン・ムーアやニール・ゲイマンのおかげで設定の凝ったキャラクターが多数いた一方で、マーベルは魔法世界や魔法キャラの設定が曖昧で、さほど確固としたグループが構築できなかったんだよな。よってドクター・ストレンジも他のヒーローのコミックに脇役として出てくる分には面白かったものの、主役となったシリーズはどれも評価がさほど高くなかったような覚えが。しかし90年代後半にジョー・ケサーダが編集長となってからはなぜか彼をゴリ推しする運動が始まり(これはケサーダも明言している)、それが決して成功しているとは思えなかったものの、こうしてハリウッドの大作映画も1つできてしまった。ケ
映画評 「沈黙 サイレンス」鑑賞 感想をざっと。 ・スコセッシの前作「ウルフ・オブ・ウォールストリート」はドタバタが続いて3時間があっという間の作品だったが、こちらは主人公たちが苦悩する姿が同じくらいの時間続くので、なかなか観ていてしんどい作品ではあったよ。大作ではあるのだが、シネコンで大勢で観る映画にしてはアートシネマすぎるというか。 ・原作は読んでないので比較などはできません。なぜ日本ではそもそも根付かないのかということや、仏教との比較などについてもっと掘り下げて欲しかった気もするものの、そこらへんは原作だとどうなっているんだろう。ただ映画というのは必然的に映像の媒体であるわけで、目から映像が入ってきてしまうために神の痛々しい「沈黙」を表すのは小説に比べて不向きであるような気もする。 ・その反面、映像の美しさは際立ったものがあった。撮影監督のロドリゴ・プリエトって「ウルフ〜」からスコセッシと組むようになった人なのか。台湾で撮影されたとはいえ日本の村のセットなどもよく出来ていたと思う。 ・司祭にほとんど会ったことのない村民までもが英語に堪能なのはご愛嬌。というか劇中ではポルトガル語を話しているという設定なの
映画評 「The Fits」観賞 昨年にサンダンスなどで公開されて高い評価を得ていた作品。 11歳の少女トニは地元の体育館で兄と一緒にボクシングを習っていたが、たまたま目にしたチームダンスのレッスンに心を奪われ、ダンスのレッスンも受けて他の少女たちに追いつこうとする。しかしチームのなかで奇妙な痙攣を起こして卒倒する少女が表れ、さらに同様の症状を起こす少女が続出したことでトニは不安になっていく…というあらすじ。 ホラーっぽい演出もあるんだけどホラーではなくて、むしろ思春期を迎える少女の不安定な心境を映し出した内容になっている。72分という短い尺のなかでは怪奇現象に対する説明などは一切行われず、ムダな部分がないままトニの話が淡々と続いていく。セーレムの魔女狩りなどの集団パニックの話をベースにしているらしいが、怪奇現象に見舞われる人が続出した場合、むしろ症状が出ない人のほうが異端なのでは?ということも示唆されていて、題名の「FITS」は「痙攣」だけでなく「周囲にフィットすること」も意味していることがよく分かる。 監督のアナ・ローズ・ホーマーにとってこれがデビュー作になるらしい。著名な役者は出ていなくて、トニ役はロイヤ
映画評 2016年の映画トップ10 上位5位と下位5位を、順不同で観た順に並べていく: <上位5位> ・「ブリッジ・オブ・スパイ」 あまり期待しないで観たら、唸るくらいに面白かった。主人公が1対2の捕虜交換に奔走する脚本が巧みなんだよな。 ・「オデッセイ」 主人公が難題を1つ1つ解決していくさまが、何度でも観られる映画。サバイバルに必要なのは信仰とかではなく科学なんだよという態度も素晴らしい。 ・「ハードコア(・ヘンリー)」 ギミック映画だと言ってしまえばそれまでなんだけど、意外としっかりSF映画してたし、シャールト・コプリーの演技は見事だった。 ・「April and the Extraordinary World」 今年は日本に限らず、アニメーションの当たり年だった。 ・「Kubo and the Two Strings もう1つのアニメの傑作。なんでこれが日本で公開されないのか、とんと分からん。 <下位5位> ・「ANOMALISA」 なぜリサは日本語を習っているのか?彼女の最後の言葉の意味することは?といったことにまつわるファンセオリーも調べてみると興味深いですよ。 ・「シビル・ウォー/
映画評 「新感染 ファイナル・エクスプレス」鑑賞 英題が「TRAIN TO BUSAN」で、日本では「釜山行き」という仮の邦題(?)で話題になっていた韓国のゾンビ映画。こないだこういうアレな邦題になったようで。 プロット自体はいたってシンプルで、韓国でゾンビ(強烈な感染能力を持っており、ちょっと噛まれただけでその人もゾンビになる)が大量発生し、ソウルを出発した高速鉄道にもゾンビが紛れ込む。列車の乗客たちはゾンビを撃退しつつ、安全な土地を目指そうとするが…というもの。 いちおうゾンビが発生した原因にもちょとだけ言及されてるものの、ゾンビと言ったらゾンビだろ!というわけで理屈めいたことなしに序盤からゾンビな展開に突入していく。2時間というホラーにしては比較的長めの尺だが、テンポもいいし展開も早いので中だるみもせずシェイプアップされた作品になっている。 一番の特徴はやはり列車という限られた空間を舞台にしていることで、隣の車両からやってくるゾンビ集団をどう防ぐかとか、離れた車両にいる友人たちをどうやって救出するか、といった点が話の重要なポイントになっている。あとは極限の状況における生存者のあいだでの確執も当然ながら描かれていて、ここら