映画評 「アントマン&ワスプ:クアントマニア」鑑賞 感想をざっと。ネタバレ注意。 * ペイトン・リードによるアントマン3作目ということで、さすがにもう「当初の予定通りエドガー・ライトが撮ってたらどうなってたか?」と思うことはなくなったものの、今回はマーベル映画よりもディズニーのファンタジー映画のような内容であった。 * MCU映画のフェーズ3は「エンドゲーム」のクライマックスの余韻にずっと引きずられていたというか、全体的な明確な脅威がないままヒーローたちが各々のトラブルに対処していたような印象があったけど、今回も(少なくとも冒頭は)世界的な危機が起きるわけでもなく、単に主人公の娘が発明した装置によってみんなが騒動に巻き込まれるというほのぼの(?)したものだったし。 * この危機感のなさが最近のマーベル映画にありがちな、アクションは多いもののストーリーの起伏に乏しく、最後はとにかく大人数の派手なバトルをやって締めくくるパターンに陥ってた気がする。 * それでやはりアントマンって大作映画の主役を飾るにはちょっとインパクトが弱いキャラクターなのですよね。戦闘に特化した能力があるわけでもなく、今回は縮小するよりも巨大化してサイズにもの
映画評 「イニシェリン島の精霊」鑑賞 感想をざっと。 * 今までのマーティン・マクドナーの作品って過度なバイオレンスとブラック・ユーモアが特徴的で、同じくアイルランドにルーツのあるガース・エニスのコミックに通じるものがあるなと思ってたが、今回は(没になった)舞台劇がベースになってるとかで、従来の作品以上に舞台劇っぽさがあって、特にサミュエル・ベケットの不条理演劇に通じるものがあるかな、と思った次第です。作品の冒頭からコルムがパードリックを説明もなく無視して、観客もなんだこれ?といった気にさせるところとか、ベケットっぽくない? * まあそのあとにコルムからもそれなりの説明があるし、老いや創造性の減衰に対する危機感とか、人間関係における乖離とか、いろいろな見方はできるのだろうけど、あまり深掘りせずに不条理演劇として観るのが良いのではと思った次第です。 * マクドナーの作品としては意外にも、初期短編の「SIX SHOOTER」以来のアイルランドを舞台にした作品になるのか。個人的に90年代にアイルランドに住んだこともあり、イニシェリン島の姿がゴールウェイやドニゴールとかでこんな風景あったよねー、と思い出しながら見ていて面白
映画評 「RED ROCKET」鑑賞 「フロリダ・プロジェクト」のショーン・ベイカー監督でA24製作の映画。2021年末に公開されてたのをやっと観た。 舞台はテキサス州のテキサスシティという小さな港町。カリフォルニアでポルノ男優をやっていたマイキーは職にあぶれ、文無しの状態で故郷のこの町に戻り、元妻の家に居候することになる。まともな職歴がないことからそこでも仕事にありつけず、マリファナの販売に携わることになった彼は、ドーナッツ店で見かけた少女レイリーに惹かれ、彼女と共に再びカリフォルニアに向かうことを夢見るのだが…というあらすじ。 プロットらしきプロットはあまりなくて、憎めない奴なんだけど徹底的なダメ男であるマイキーを中心に、家でタバコ吸ってるだけの元妻とその母親や、隣人のボンクラ男、マイキーを信用してないマリファナの売人などといった、貧しい地域に住む人たちの生き様が描かれていく。全体的にはドタバタが強調されたコメディドラマといった感じかな。 「フロリダ・プロジェクト」もそうだったがショーン・ベイカーってこういう貧困層の人たちの描写が上手くて、ハリウッド映画では見かけない層の人たちが出てくるのが逆に新鮮なのよな。im
映画評 「SMILE」鑑賞 昨年なぜかヒットしたホラー映画。精神科医の主人公が患者を診ていたところ、その患者が笑みを浮かべて突然自殺してしまう。そのあとも主人公の周りで笑みを浮かべて死ぬ人間が続出し、やがて彼女はこれが一種の呪いであることに気づくのだが…というあらすじ。 もともとは配信スルーになる予定だった作品らしく、作りはチープ。肝心の呪いの仕組みとか原因とかの説明はろくに無くて、とりあえず怖そうな展開にしておけばいいや、といった感じ。そこらへん日本のJホラー映画に近いのかな?作りの安さとあわせ、00年代初期にFOXがビデオスルーで出してた一連のホラー映画感(「ミラーズ」とか)がありました。 微笑みの呪いが「人に引き渡されていくもの」だという設定は傑作「イット・フォローズ」のパクリなんだろうけど、あの映画にあったジワジワと恐怖が迫ってくる演出は皆無で、「急にビックリさせる→主人公の幻覚でした→またビックリさせる→これまた主人公の幻覚でした」というパターンの繰り返しなのでストーリーなんてどうでもよくなってしまう。これ元々は10分の短編をその監督が長編にしたものらしいが、全体的に水増ししている感があるのは否めな
映画評 「Three Thousand Years of Longing」鑑賞 ジョージ・ミラーの新作。「マッド・マックスの監督がこんな映画を?」と一瞬思ってしまうが、ペンギンが踊るアニメも作ってた人なので意外性はないわな。日本では「アラビアンナイト 三千年の願い」という邦題で2月公開だが、話に「アラビアン・ナイト」関係ないから!旧約聖書の話のあと、「アラビアン」の時代をとばしてオスマン・トルコ帝国の話になってるぞ? 舞台は現代のイスタンブール。学術会議のためにそこを訪れていた文化学者のアリシアは古物屋で古びたガラス瓶に惹かれてそれを購入する。彼女がホテルでそれを開けると、中から妖霊のジンが飛び出してくる。彼は長年にわたって瓶に閉じ込められていたというのだ。解放された礼として3つの願いを叶えてやろうとアリシアに伝えるジンだったが、ジンにまつわる伝承に詳しい彼女は彼に騙されるのではないかと彼を拒絶する。そんな彼女を前に、ジンはなぜ自分が過去に3回も瓶に閉じ込められることになったのかを語るのだった…というあらすじ。 ジンは万能の力をもっているようで実はいろいろ弱いところがあって、魔法を使う人間には手込めにされるし物理的な弱点も持っていたりする。また誰もが思うであろ
映画評 「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」鑑賞 いやー評判通り面白かった。日本は3月公開。遅いよ。とにかく先の展開が読めない作品なので、何の前知識も持たずに観に行ったほうが良いと思うものの、某ピクサー映画の抱腹絶倒のパロディが出てくるので元ネタは知っておいたほうが良いかも。 夫婦でクリーニング屋を細々と経営する中国系夫婦の奥さんが、ある日突然、別の次元からやってきたという別の夫に出会い、マルチバースすべての世界に迫る脅威と戦うことになる…というあらすじだが、SFからカンフー映画からコメディまであらゆる要素を混ぜ込んで、それでいてしっかり感動させてくれるという見事な内容になっている。 主人公は凡庸な主婦である一方で、別次元の夫に与えられたヘッドセットを通じて他の次元の自分にアクセスしてその能力をコピーすることができ、おかげで小指で人が殺せるカンフーの名手になれたりもする。このためカンフー映画やウォン・カーウェイの映画のパスティーシュなどが出てきて面白いのですが、別次元にアクセスするには「奇抜な行為」をやる必要もあるとかで、彼女やその敵たちが行う行為がいろいろエスカレートしていきます。なんとなく雰囲気が近いな、と思ったのは「バカルー
映画評 「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」鑑賞 近所のなんちゃってIMAXで3D鑑賞。ハイフレームレートではないはずだが、キャラクターがヌルヌル動いていたような。感想をざっと。ネタバレ注意。 * 面白いかどうかと訊かれたら、普通に面白いと返せる作品。前作のあとにワラワラと出てきた「後付け3D」にしている映画と違って、最初から3D上映することを緻密に計算して撮影していて、光の当て方などもそこらの作品と全く違う。ストーリーの拙さを映像美で十分すぎるほど補っており、3時間のアトラクションを2000円ちょっとで楽しめる、と割り切っても良いのでは。 * 普通の映画とは一線を画した異世界の雰囲気を作り上げることに成功していて、特にCGのクリーチャーが多く出てくる前半なんかはNHKの科学ドキュメンタリーまがいの出来になっているけど、そうした映像で映画を一本作ってしまったのは普通に凄いと思いました。 * 逆に言うと劇場で3Dで観てなんぼの作品なので、後で自宅のテレビとかで観たら感想は大きく変わるだろうな。劇場で再度観たとしても、途中のクジラとの交流シーンとかはかなり冗長に感じられるかもしれない。 * 前作が13年前だっけ?話の内容はまだし
映画評 「THE WHALE」鑑賞 ダーレン・アロノフスキーの新作で製作はA24。こないだ海外出張時に現地で封切られているのを知り、映画館に行ってみたら観客は自分ひとりだった!興行的に大丈夫かこれ。以降はネタバレ注意。 アイダホのアパートに独りで暮らすチャーリーは体重300キロの極度の肥満で、歩行器なしでは立ち上がることもできずに部屋に閉じこもって暮らしていた。文学の教授である彼は顔を隠したままオンライン講座で生徒たちを教えて生計を稼ぎ、友人の看護師が身の回りの世話を見てくれていたが、コーラをがぶ飲みしてピザにがっつく生活のために異常な高血圧となって、いつ死んでも不思議でない体になっていた。そんなとき疎遠になっていた娘エリーが彼のもとに現れ、チャーリーは彼女の英語の課題を手伝うことで彼女とよりを戻そうとするのだが…というあらすじ。 チャーリーはゲイという設定で、8年前に妻子を捨てて、教え子だった男性と暮らし始めたものの彼は亡くなり、チャーリーはひとり寂しく暮らす一方で捨てられた側のエリーとその母親からは疎ましく思われている。話の大半はチャーリーのアパートのなかで展開され、4:3の狭い画角のなかでチャーリーと看護師やエ
映画評 「CRIMES OF THE FUTURE」鑑賞 デビッド・クローネンバーグによる久々のボディホラー映画だ!と言っても個人的に前作「マップ・トゥ・ザ・スターズ」を見忘れてるので確約できないのだが。以下はガッツリネタバレしてます。 舞台は未来。人々の体は謎の進化を遂げ、痛みや感染症とは無縁の体質になり、簡単に開腹手術などが行えるようになっていた。さらに極端な進化を遂げた者もおり、体内に新たな内臓が生み出される症状を持つソール・テンサーは、パートナーのカプリスにそうした内臓を観客の目前で摘出させるというパフォーマンスを行い、アーティストとして高い評価を得ていた。その一方で政府は人類の予測のつかない進化を警戒し、新たな臓器の登録を行なっていたが、さらに急激な進化を唱える過激派たちが登場して…というあらすじ。 そもそもなぜ人類がそんな進化を遂げたのかとか、政府は臓器を登録してどうするのか、などといった説明は一切ないので気にしない方がいいです。監督が単に臓器摘出がテーマの映画を撮りたかったのでしょう。ストーリーの設定自体は確かにグロいものの、摘出される内臓などは「イグジステンス」のコントローラーのような、シリコン感のあるクローネンバーグ風の
映画評 「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」鑑賞 感想をざっと。以下はネタバレ注意。 * 前作の主役を務めた役者が他界してしまったという、そもそも続編を作れるの?という状況から続編を作ってしまったという点では特筆すべき作品。個人的にはエンターテイメントたるものザ・ショウ・マスト・ゴー・オンだと考えているので、ティチャラ役がリキャストされても全く気にはならないのだが、建前上そうもいかなかったのでしょうね。ティチャラの死はプロットの要になっており、それは敬意なのか搾取なのか。しかし以前からマーベル映画に出ていた役者などはどんどん年をとっていくわけで、いずれは主要なキャストの交代も真剣に検討しなければならない時期が来ると思うのだがどうするんだろうなあ。 * 大まかには君主がいなくなった後の国の護りについての物語で、そこにネイモア率いるタロカン王国が攻めてくるわけですが、そもそも彼らの持つヴィヴラニウムを狙ってるのは欧米諸国なわけで、ワカンダとタロカンが戦わざるを得なくなるまでの話の持っていきかたがちょっと弱かったような。 * ネイモアの脚色は良かったんじゃないですか。コミックではマーベル最古参のキャラクターとはいえ「コスチュームが海
映画評 「Weird: The Al Yankovic Story」鑑賞 先日の「SLUGFEST」など、微妙に尖ったコメディ番組を打ち出してくるROKUチャンネルのオリジナルムービーで、パロディ・ソングの王様ウィアード・アル・ヤンコビックの(偽)伝記映画。これ9年前にFUNNY OR DIEでフェイクの予告編だけ作られて話題になったものが、今になって本編が作られたものみたい。主役のアーロン・ポールをはじめ役者はみんな交代しているが監督のエリック・アペルは予告編と一緒か。 ヤンコビックが子供のときにセールスマンから買ったアコーディオンを学び、ノベルティ・ソングのDJであるドクター・ディメント(って知ってる?日本でもFENで彼の番組やってたんよ)に見出されるまではまあまあ史実に基づいているものの、ミュージシャンになることを親が理解してくれなかったとか、マドンナと恋仲になって酒に溺れるといった展開はみんなウソ。彼のパロディ・ソングと同じく、ロックンローラー映画のパロディとして観て楽しむのが良いでしょう。 2分弱の予告編として完成していた作品を2時間弱の長尺にしたわけだが、変に水増ししたような部分もなく、彼がミュージシャンとして目覚める過程や南米での冒険といっ
映画評 「The Unbearable Weight of Massive Talent」鑑賞 ニコラス・ケイジが本人を演じる、というギミックめいた設定で日本でも話題になっていた覚えのある作品。日本では「マッシブ・タレント」の邦題で来年公開?ハリウッドの内輪ネタばかりの陳腐な作品になっていたら嫌だな…と思っていたら普通に楽しめる痛快アクションコメディであったよ。 主役のニコラス・ケイジは過去に「フェイス/オフ」とか「コン・エアー」などヒット作に出ていたが、最近は望んだ役をゲットできずに借金が募り、妻や娘とも疎遠になっている中年役者という設定。本物のケイジには娘がいないので、ここらへんフィクションが入ってることがよく分かりますね。失望したケイジは役者を辞めることを決意し、借金を返すためマヨルカの大金持ちであるハビという男性の誕生パーティにゲストとして呼ばれることにする。ハビはケイジの熱心なファンで、自らも脚本を執筆するほどの映画ファンでありケイジも彼に打ち解けるのだが、実はハビがギャングのボスで、大統領の娘を誘拐しているらしいことをケイジは知るのだった…というあらすじ。 おれニコラス・ケイジの映画って(いかんせん数が多いので)それなりに観ているのですが、最近は「マッド・ダディ」
映画評 「THE WANTING MARE」鑑賞 「UPSTREAM COLOR」のシェーン・カルースが関わっているということで興味のあった2021年の作品。カルースはもともとエグゼクティブ・プロデューサー扱いだったそうだが、恋人に対するDV容疑で逮捕されたことで名前を消されたそうで、何やってんだか。 話の設定はディストピアSFもしくは異世界ものといったところで、アナメーアと呼ばれる世界においては2つの都市があり、北のウィズレンは暑くて馬たちが駆け回り、この馬たちは毎年、南にある寒いレヴィセンに船で輸出されていた。ウィズレンの住民たちはレヴィセンに渡ることを渇望しているが、船のチケットは非常に貴重なものだった…というもの。 設定は壮大なのだけど低予算映画だから内容はもっと小ぢんまりしていて、このような世界設定は冒頭で説明されるだけ。あとはウィズレンに住む人々の話が語られていく。人物の背景が全く説明されないので推測するしかないのだが、過去の世界を夢見ることができる少女モイラが、重傷を負って目のまえに現れたローレンスという男性を介護しているうちに彼と恋に落ちる。そしてローレンスは海辺で赤ん坊を拾い、それをモイラに託して彼女のもとを去る
映画評 「Hot Take: The Depp/Heard Trial」鑑賞 人生でこれに関わってはいけないな、と個人的に思うものがいくつかありまして、台風で切れた電線とかヨダレを垂らした狂犬とか学生ローンとかそんなものですが、先日あったジョニー・デップとアンバー・ハードの離婚裁判もその1つでして、ハリウッドセレブのどうでもいい痴話喧嘩のニュースは意図的にシャットアウトするように努めていたのです。デップにDVをくらったと訴えたハードが実は自身でもえげつないことをやっていて、男性だって被害者になるんだと一部の男性陣が溜飲を下げているのを見たような気がするがよく分かりません。 とはいえ一連の過程が取るに足らないものであったにも関わらず、あるいは取るに足らないものであった故か、世間の注目度は非常に高くて、世の中の多くのスキャンダルと同様にこのような実録映画が早くも作られてしまった。製作したのは極小配信プラットフォームのTUBI。日本でもこないだ安倍元首相の暗殺事件がすぐ映画化されてたようですが、アメリカもこういうスキャンダルものは映像化されるのが早いですね。 内容はあってないようなもので、デップとハードが出会って恋に落ちるものの、すぐに関係が悪化してお互いに手を出
映画評 「VENGEANCE」観賞 US版「THE OFFICE」などで知られるBJ・ノヴァクが監督・脚本・主演を担当した映画。 ノヴァク演じるベンはニューヨークに住む無名のジャーナリスト。女性関係も奔放であてもなく暮らしているタイプだったが、彼がかつて付き合ったというアビーという女性が亡くなったことを彼の弟から知らされ、故郷のテキサスまで葬式に来て欲しいと伝えられる。断る余裕もなくテキサスの田舎町へやってきたベンはアビーがオーバードースで死んだことを知るが、弟のタイは彼女が何者かに殺されたと考え、テキサスで警察はあてにならないから自分たちで犯人を探して復讐をしようとベンに持ちかける。こうしたテキサス文化にカルチャーチョックを受けたベンは、NYで名を売るチャンスだと考えて一連の調査をポッドキャストにまとめようとするのだが…というあらすじ。 いちおうブラックコメディとされているがいろいろ社会風刺が盛り込まれていて、1つは何でも(特に実録殺人ネタ)をポッドキャストにしてしまう最近の文化かな。もう1つはテキサスの田舎者に対するNYのインテリリベラルの目線で、アビーの家族が愚鈍なレッドネックたちだと考えたベンは彼らをポッドキ
映画評 「THE NORTHMAN」観賞 「THE WITCH」「THE LIGHTHOUSE」とダークな時代劇には定評のあるロバート・エガースの3作目。以下はネタバレ注意。 舞台は9世紀末のアイスランド。アムレスはそこの王国の後継者である若き少年だったが、父であるアウルヴァンディル王が伯父のフョルニルの奸計によって殺害されてしまう。フョルニルに王国と母親を奪われたアムレスは小舟に乗って脱出し、父の復讐を誓うのだった。そしてヴァイキングに加わって勇敢な戦士となったアムレスは、フョルニルとその一味が別の王に国を追われてアイスランドの僻地に暮らしていることを知り、奴隷に扮してフョルニルのもとに向かうのだが…というあらすじ。 エガースの過去の作品にくらべると格段にとっつきやすい内容になっていて、意外なくらいに正統派のヒロイックファンタジーになっている。悪い伯父に対する復讐譚とか、ありがちな内容だな、と思っていたらこれデンマークの有名な伝記をベースにしていて、アムレス(アムレート)はシェイクスピアの「ハムレット」のもとになった人物なのですね。屈強な主人公が群がる敵をなぎ倒し、巫女から神託を受け、伝説の剣を手に入れるために夜の祠で魔
映画評 「WATCHER」鑑賞 「イット・フォローズ」の、「つきまとわれて困ってしまう」マイカ・モンローが帰ってきた!というわけで彼女が主演のスリラー作品。以降はネタバレ注意。 舞台はブカレスト。夫の転勤に同行する形でそこにやってきたジュリアは現地の言葉を話せずに孤独を感じるなか、住んでいるアパートの反対側の建物からいつも彼女をずっと見つめている人影があることに気づく。彼女の夫たちはジュリアの不安が杞憂であることを伝えるが、その一方では連続殺人事件が街で起きていた。そして外出したジュリアは何者かが彼女を尾行していることに気づき…というあらすじ。 スーパーナチュラルものというよりヒッチコック風のスリラーで、人知を超えた何かにつきまとわれる「イット・フォローズ」のような絶望感こそないものの、誰も助けてくれない状況において涙を浮かべながら努力するマイカ・モンローの演技が相変わらずハマっていて見応えあり。いわゆるスクリーム・クイーンとは一風違ったホラー女優としての存在感があるよな。あとは「トーチウッド」のバーン・ゴーマンなどが出演してます。 これ元の脚本では舞台がブルックリンだったらしいが監督のクロエ・オクノ(日系人?
映画評 「NOT OKAY」鑑賞 サーチライト・ピクチャーズ製作の、米HULUオリジナル映画。FOXを買収したあとのディズニーって、連れ子を憎む継母のごとくサーチライト・ピクチャーズ作品を劇場公開せずにHULUに島流しにしているようで、あれって良くないよなあ。こないだの「Good Luck to You, Leo Grande」なんて劇場公開して宣伝に力いれれば、エマ・トンプソンが余裕でアカデミー賞候補になりそうなのに。 それでこの映画の舞台はニューヨーク。雑誌の編集部で働くダニはSNSで有名になることを夢みるものの、同僚にも人気のない女性。そんな彼女は同僚で憧れのインフルエンサーであるコリンの気をひくために、パリでの研修に参加するとウソをついてしまう。そのウソをカバーするために自分がパリにいる写真をフォトショップで捏造してSNSにあげる彼女だったが、その直後にパリで大規模なテロ事件が発生、彼女は一躍「テロのサバイバー」として話題になってしまう。自分がそもそもパリに行ってないことを告白することもできず、コリンにも注目されたダニは逆に気をよくして、学校の銃撃事件の生存者である少女とも知り合った彼女は一緒にソーシャル・ム
映画評 「ソー:ラブ&サンダー」鑑賞 29本目のマーベル映画、となると観にいく方も流石に疲れてくるのでこないだの「ドクター・ストレンジ」は感想を書く気力がなかったのですが、これは忘備録的に感想をざっと: * 前作「ラグナロク」以上にコメディタッチの出来で、まあそういう作品だとポップコーン片手に観るのは悪くないんじゃないですか。 * その一方で子供の喪失とか不治の病や恋愛といった真面目なテーマになるとまるで深掘りできてないのが明白で、全体的にメリハリのない作品になっていた。タイカ・ワイティティは「ジョジョ・ラビット」もそうだったが真っ当に向き合うべきところ他愛もないジョークを加えて逃げてしまうのが彼のスタイルというか弱点というか。人間関係については「ワイルダーピープル」のほうがずっと上手く演出できてたと思うんだがな。 * この影響で脚本も一本調子で、子供たちがさらわれた!助けに行くぞ!だけ。2時間という尺は最近のマーベル映画にしては短いのかもしれないけど、もう一捻りあってもよかったのでは。ゼウスとの陳腐な掛け合いに時間を割いてるよりも。 * ゴア・ザ・ゴッド・ブッチャーや女性版ソーが出てくるあたり、数年前のジェイソ
映画評 「MAD GOD」鑑賞 ストップ・モーション・アニメの第一人者であるフィル・ティペット御大が30年かけて作り上げた大作…というふれこみだが中断期間もあったようなので正確な製作期間は分かりません。何にせよこのような問題作を、長い間黙々と作業して作り上げてしまうことが常識を逸しているのだが。 内容は当然ながらストップ・モーションのアニメ作品で、劇中で意味のわかるようなセリフは一切使われていない(一瞬「OH NO!」と呟かれる)。世界背景の解説なども全くなく、話のなかで何が起きているかは推測するしかないのだが、混沌とした怪物と汚物まみれの世界に、上空から潜水鐘のようなものに入った一人の兵士(公式な名前は『暗殺者』らしい)が降りてくるのが話の始まり。スーツケースをかて手に持った兵士はそのまま地中に降り立ち、ボロボロの地図を頼りにしてさらに地下を目指す。そこで彼は電気椅子につながれた巨人たちや、顔も知性もない人造人間(?)たちが奴隷のように働く巨大工場などを目撃する。それらを通り抜けて兵士は目的の場所に到着するのだが…というあらすじ。 繰り返すが世界設定の説明などは全くないので、兵士が何者なのか、彼が降り立った世界
映画評 「DUAL」鑑賞 世間の評判はどうであれ俺の非常に好きな作品である「THE ART OF SELF-DEFENSE(恐怖のセンセイ)」の監督であるライリー・スターンズの新作。以下はネタバレ注意。 舞台は架空のアメリカ。技術の進歩と法改正により、病気で余生いくばくもない人々は、残された遺族の悲しみを軽減させるために自分のクローンを作り、自分が亡きあとに自分の代わりとして暮らさせることが認められていた。しがない生活を送っていた女性サラも、大量の吐血をしたことで自分の余命がわずかであることを知り、周囲に勧められるまま自分のクローン(ダブル)を作る。サラのすべてを学び、彼女の母親や恋人とも仲良くなっていくダブル。しかしサラは奇跡的に完治してしまい、自分の立場を姑息にも乗っ取り始めたダブルを処分しようとするものの、法的にはダブルにも生存権が与えられていた。この場合オリジナルとダブルは観衆の前でルールに基づいて殺し合いを行い、生き残った方が「本物」になれるのだった。こうしてダブルとの闘いを控えたサラは、格闘のスキルを学ぶための教室に通うのだったが…というあらすじ。 自分のクローンと一騎打ち、というと藤子不二雄の
映画評 「LAMB」鑑賞 アイスランドの映画だよ。日本では9月公開だとか。以下は完全なネタバレがあるので注意。 舞台はアイスランドの人里遠く離れた山奥の農家。そこで羊を飼ったり農業を営んでいるマリアとイングヴァールの夫婦はある日、羊の一匹が奇妙な子供を産んだことを発見する。その子供に困惑しながらも、ふたりは自分たちの子供として育てることにするのだが…というあらすじ。 これだけではよく分からんね。要するに産まれた子供は羊と人間のあいのこのような存在で、人の体に羊の頭がついているような生物。マリアとイングヴァールにはかつて子供がいたことが示唆され、その娘にあやかってアダと名付けられた子供は両親に愛されて育てられていく。 物語は3章に分けられていて、アダの実の母親(つまりヒツジ)が子供を取り返そうとするのが第1章、第2章はイングヴァールのだらしない兄貴がふたりのもとにやって来て、第3章に登場するのは…。セリフも少なくてあまり多くのことが語られない作りだが、1つのテーマは親権争いになるのかな?アダの実の母親とマリアの確執とか。いちおうホラーという扱いだが、「ローズマリーの赤ちゃん」よりもフォークロア的な内容になっ
映画評 「Fire Island」鑑賞 サーチライト・ピクチャーズ製作の、米HULUのオリジナルムービー。昔は(FOX)サーチライトの映画はみんな劇場公開されたものだがのう。ディズニーが配信に追いやるようになってしまった。 舞台は題名の通り、ニューヨーク州ロングアイランドの南にある細長いリゾート地ファイアー・アイランド。ここはゲイのリゾート地として有名だそうで、主人公のノアは親友のハウィーやほかの友人たちと共に、毎年来ているこの島にバカンスにやってくる。彼らはいつもお世話になっているレズビアンのエリンの家に泊まるのだが、彼女が経済的に困窮して家を売ることになったため、これが最後のバカンスになることを知る。そんな彼らは素敵な出会いを求めてパーティーに向かい、近くの裕福な家に滞在しているチャーリーたちと仲良くなる。そしてチャーリーの友人のウィルが自分に気がありそうなことに感づくノアだったが、ウィルが堅物ということもあって二人の仲はなかなか進展せず…というようなあらすじ。 これでピンとくる人は皆無だろうが、これジェイン・オースティンの「高慢と偏見」をベースにしているそうな。ノアがエリザベスでウィルがダーシーでハウイーがジェーン
映画評 「THE INNOCENTS」鑑賞 ノルウェーの映画だよ。以下はネタバレ注意。 舞台はノルウェー(郊外?)の住宅団地。親の仕事の関係でそこに引っ越してきたイーダは、ベンという少年と友達になり、彼が持っている不思議な能力を目にする。一方、イーダの姉で重度の自閉症児であるアナのもとにはアイシャという少女がやってきて、彼女もまた不思議な能力を用いてイーダと心を交わすのだった。アナもまた能力を持つ兆候を見せ、イーダたち4人はそれらの能力を使って無邪気に遊んでいたが、やがて家庭環境の不満などからベンが暴走気味になり、その脅威はイーダたちにも向けられることに…というあらすじ。 ホラーっぽい演出もあるものの、意外と純然たる超能力SFであった。子供たちが持っている能力は明確に説明されないものの、ベンがテレキネシスでアイシャがテレパシー、アナもちょっとテレキネシスといったところかな。「クロニクル」みたいな派手な超能力バトルはない一方で、湖の水とか足元の砂の動きを使って超能力を効果的に表現している。 題名こそ「無垢な者たち」だが主人公の子供たちは子供ながらの残虐性を秘めていて、イーダは親の関心を集めるアナに嫉妬して彼女を虐めているし、
映画評 「Bestia」鑑賞 明日はアカデミー賞授賞式ということで、今年のアニメ短編部門にノミネートされたチリの作品。 磁器のごとき外見をもった、太った女性が犬と暮らしているさまを描いたストップモーション・アニメでセリフは一切なし。後述するようにショッキングなシーンがちらほら出てくるものの、これが何を主題にしているかを知らないと、作品を理解することはまず無理でしょう。 それで作品が何を主題にしているかといいますと、俺もCRACKEDの記事を読んでこの作品のことを知ったわけだが、これチリの軍事政権下で政治犯を拷問したというイングリッド・オルデロックという女性の話なんだそうな。チリに亡命したナチスのドイツ人の家庭に生まれた彼女は、軍事政権下の秘密警察のメンバーとして政治犯の拷問にあたり、飼い犬に彼らを強姦させる非道な行為を行ったとされる。秘密警察を去った際に左派ゲリラ(もしくは彼女の元同僚)に頭を狙撃されるものの一命を取り止め、その後は軍事政権下の行為について裁かれることもなく2001年に亡くなった。 こういう背景を知ってからこの作品を観ると、オルデロックの経歴が15分ほどの尺で巧みに語られていることに驚く。飼い