映画評 とてもヒドい映画「VULGAR」鑑賞 ケヴィン・スミスの製作会社ビューアスキューが製作した作品で、とてもヒドい映画として評判の悪い「VULGAR」を観た。 うむ。これは確かにヒドい。ここまで救いようのない映画って久しぶりに観たような気がする。 とりあえずあらすじだけ先に紹介します。ちょっとキモいよ。: 小さな町に住むウィルはさえない青年で、老人ホームにいる母親にはガミガミしかられ、安アパートの前にたむろする酔っぱらいたちにはいじめられてばかり。彼は子供の誕生日パーティーに出演するピエロとしてどうにか生活費を稼いでいました。 ↓ そんな彼はバチェラー・パーティー用のピエロとしてバイトをすることを考案します。バチェラー・パーティーといえばストリッパーが出てくるのが恒例ですが、その前にジョークとしてピエロが登場すればウケるだろうと考えたのです。 ↓ そして初めてバイトの依頼を受けた彼ですが、訪問した先はなんと3人のキチガイ親子が待ち受けている一室で、そこで彼は暴行をうけてレイプされたうえ、その様子を撮影されてしまいます。 ↓ 帰宅して失意に沈むウィルですが、その後ある日、仕事に向う途中で娘を人
映画評 「ブロークン・フラワーズ」鑑賞 ジム・ジャームッシュの「ブロークン・フラワーズ」を観た。 ジャームッシュの長編作品は全部観てるんだが、なんか「デッドマン」以上にピンとこない作品だったかも。オヤジが過去の恋人たちのもとを訪れて、見たことのない息子について知ろうとするプロットって、どうも俺がジャームッシュに期待してるものとは違うような気がするんだけどね。これがウェス・アンダーソンの作品だったらハマってたんだろうけど。ただ決して悪い作品ではなくて、場面転換に入る黒みは「ストレンジャー・ザン・パラダイス」を彷彿とさせるし、主人公が何歳になっても女の脚に目がいくようなスケベだという描写とかは結構良かったんだが。でもジュリー・デルフィーとかクロエ・セヴィニーとか、いい女優がいろいろ出ているのに出番が少なかったのは残念。 前作(「コーヒー&シガレッツ」は除く)の「ゴースト・ドッグ」が傑作だっただけに、失速した感は否めない。でも「デッドマン」も最初に観た時は「ジャームッシュが西部劇なんか作るでねえ!」と思ったけど、最近は傑作だと思うようになってきたんで、この「フラワーズ」もいずれは再評価するようになるのかな。
映画評 「ウィズネイルと僕」再鑑賞 カルト人気を誇るイギリス映画「ウィズネイルと僕」を10年ぶりくらいに観る。ずっと70年代の映画だと思ってたけど、1986年公開の作品だったんすね。 再鑑賞して実感したのは、これがものすごく単純なプロットを持った映画だということ。カムデンに住む無職男2人が、田舎にバケーションに行って帰ってくる。ただそれだけ。もちろん途中でいろんな騒動が巻き起こるんだけど、基本的なプロットはものすごく単純。魅力的なキャラクターと印象的なダイアログがあれば面白い映画は十分作れることを証明した好例になるのかな。ジミヘンの曲の使い方もなかなか効果的。あと劇中では男にヤられることに対して怯え続けるマーウッド(「僕」だ)だが、実は振る舞いとか話し方が何気にとてもカマっぽいというのが興味深い。 個人的にはむかしアイルランドのド田舎で2週間ほど過ごしたことがあって、そのときの生活がこの映画での田舎の描写と多分に重なるところがあり、何か懐かしい思いにしてくれる映画なのです。 I demand to have some booze!
映画評 「トゥモロー・ワールド」鑑賞 2006年度の最優秀映画という声も高い「トゥモロー・ワールド」をやっと鑑賞。 うむ。確かに素晴らしい出来の映画。実のところあまりにも作りが手堅すぎてツッコミどころもなく、あまりコメントすることがなかったりする。やはりイギリスにはファシスト国家の姿がよく似合うね〜とか、マイケル・ケインは相変わらず演技が上手いね〜とか、そんなことしか書けん。あれだけのキャストとセットを備えたのであれば、アンソニー・バージェスの「見込みない種子」の撮影がついでに出来たかも。テーマは正反対(人口過剰)の作品だけど、話の舞台と流れが似てるような気がしたので。 ちなみに個人的には終盤のカメラ長回しよりも、例のピンポン球のほうが、どうやって撮影したのか知りたかったりする。
映画評 「最前線物語」鑑賞 サミュエル・フラーの代表作(だよな?)である「最前線物語」を鑑賞。最近は158分の長尺版が出たらしいけど、今回観たのは従来の113分バージョン。 「大きな赤の1番」こと第1歩兵師団の第二次世界大戦における姿が、いくつもの小話として描かれていく作品で、全体的な統一感にこそ欠けるものの、フラーの経験に基づいた戦闘描写が非常に細かく凝っていて見応えがある。なかでも迫力があるのはやはりノルマンディー上陸の戦闘で、鉄条網を破るために兵士たちが順番通りに爆弾筒を抱えて進もうとするものの、ちょっと進むたびに狙撃されてバタバタ倒れていくさまは、あまりにも人が死ぬのでまるでドリフのコントか何かを観てるような気になってしまう。波打ち際の死体の腕時計(どんどん血まみれになっていく)によって上陸作戦が長引いていることを伝えるという演出もなかなか巧いね。 出演者には「帝国の逆襲」に出たばかりのマーク・ハミルなどもいるけど、やはり1人で映画を食ってしまっているのがベテラン軍曹を演じるリー・マーヴィン。敵の裏をかいてドイツ軍兵士をナイフでサクサク刺し殺していく一方で、強制収容所にいた子供を気遣うなどといった、奥の深
映画評 「SCOTLAND, PA」鑑賞 わたくし大学生の頃は英文学を専修しておりまして、自分が読んだ本について語れるようなゼミもないまま、英語の教科書を1文ずつ生徒たちがひたすら訳していくクラスを50くらい履修させられるという、それはそれはヒドい大学だったのですが、2年生のころには「英文学の巨匠について学ばんかい!」というわけでシェイクスピアに関するクラスを強制的にとらされたんだが、このときの先生というのが平気で10分くらい遅刻してきて、その代わり授業の終わりを15分くらい遅らせるようなボンクラでさ、そのくせ「オメーらシェイクスピアのことなんて知らねーだろ」みたいな口調で授業をしやがんの。ああ、イヤな学生時代だったなあ。これらロクでもない授業と最低の失恋が俺の大学の思い出です。 で話をシェイクスピアに戻すと、多くの人がそうだと思うけど、学校で無理矢理読まされる作家(森鴎外とか)って概してものすごくツマラなく感じられてしまうわけで、おかげで俺は今になっても「ロミオとジュリエット」とか「リア王」とかを読んだことがなくて、まっとうに読んだシェイクスピア作品って「ジュリアス・シーザー」くらいかもしれない。 そんなわけですが、ふとした
映画評 「300」鑑賞 やっと「300」を観た。 う〜ん、なんかダメ。「V・フォー・ヴェンデッタ」と同じで、製作側の原作に対する忠誠心は感じられるものの、脚色がマズいために十分に楽しめない作品になってしまっている。 アメコミ原理主義者として言わせてもらうと、全体的に演出が派手で騒がしく、原作にあった静と動のコントラストが失われているのが残念。以前に「シン・シティ」についても書いたけど、コミックではクールに決めて印象的になっていた場面が、映画だと過剰な音楽がついたりして逆になんか陳腐になってしまっている。例えば「ここはスパルタじゃい!!」のセリフなんかも、原作では慌てふためく伝令に対してレオニダスが無慈悲に言い放つ姿がカッコよかったのに(下図参照)、映画だとテンション高すぎて何だかなあ、という感じ。まあこの場面がネット上でカルト的人気を誇っていることを考えると、多くの人は映画の演出を気に入ってるみたいだけどね。 ほぼ全てがグリーンバックという映像については、あまり何も言う気はないが、リン・ヴァーリィの素晴らしい色使いが反映されてなかったのは残念なところか。戦闘シーンはそれなりに観てて楽しめたけど、なんかスローモ
映画評 「ザ・ブリッジ」鑑賞 半月に1人が飛び降りるという世界有数の自殺の名所、ゴールデンゲート・ブリッジでの自殺者たちを追ったドキュメンタリー「ザ・ブリッジ」を観る。「AVクラブ」でのレビューを読んで結構期待してた作品なんだけど、実はあまり面白くなかった。 この作品は長期にわたる橋の撮影によって収められた複数の自殺の瞬間と、そうした自殺者の家族や友人たちのインタビューによって構成されている。これに加えて自殺を阻止した人の話や、橋から飛び込んで奇跡的に助かった人たちのインタビューもあるんだけど、結局のところなぜ彼らが自殺を試みることになったのかについては、何ら明確な答えが出ないままに作品は進行していく。飛び込んで生還した人にとっても、なぜ自分が橋から飛び降りたのかについて明確な説明ができないでいる。まあ当然といえば当然のことなんだろうけど、要するに答えのない問いかけがずっと続いているわけで、観ている側としては居心地が悪くなるのは確か。映像もインタビューの場面と自殺の瞬間が交差して映し出されるだけで、やや単調かも。自殺の場面は確かに衝撃的なんだが、観てて楽しいものでもないし。 ゴスの格好をして橋の上をうろついている人
映画評 「マーク・トゥエインの大冒険/トム・ソーヤーとハックルベリーの不思議な旅」鑑賞 カート・ヴォネガットの影響でマーク・トゥエインの本はよく読んでいたのですが、そのトウェイン自身を主人公にしたクレイメーション映画「マーク・トゥエインの大冒険/トム・ソーヤーとハックルベリーの不思議な旅」(1985)を観る。 これはクレイメーション(登録商標だったのか!)としては世界初の劇場長編で、トム・ソーヤーやハック・フィン、ベッキー・サッチャーといったおなじみのキャラクターたちがトゥエイン自身と奇抜な飛行船に乗り込み、ハレー彗星に向って旅をする…といったファンタジー風の作品になっている。旅の途中の小話として「その名も高きキャラヴェラス郡の飛び蛙」や「不思議な少年(第44号?)」、そして俺の大好きな「アダムとイブの日記」といったトゥエインの作品の物語が語られていく。「アダムとイブの日記」の最後の一文はいつ読んでも(聴いても)感動するなあ。俺の人生観に大きな影響を与えた「人間とは何か」も含まれてればなお良かったんだろうけど、あれはエッセイだからね。 クレイメーションの出来も優れており、細部の描写まで凝っていて観る人を飽きさせない。ただ「ウォレスとグルミット」とかに比べて人間の加尾の造形
映画評 「X-MEN:ファイナルディシジョン」鑑賞 「X-MEN:ファイナルディシジョン」を観る。 ダメ。駄作。 最近は星の数ほど作られてるアメコミ映画ですが、そのきっかけとなった「Xメン」を俺は高く評価していて、原作がソープオペラみたいにチャラチャラしてるのに対し、「差別される者同士の争い」という重厚なテーマをきちんと汲み取って前面に据えたのが良かったかなと(そのあと原作もグラント・モリソンが執筆するようになって一気に面白くなったが)。「X2」も政府の強硬派に迫害されるミュータントたちの描写が結構良かったと思うし。要するに人物描写がきちんとしてたんだよね。 しかしこの「ファイナルディシジョン」はプロットを中心に据えてしまったゆえに人物描写に時間が割かれてなくて、登場人物がみんな薄っぺらく感じられてしまう。セリフはみんな説明口調だったり凡庸な一言ばかりで、ハリー・ベリーやヒュー・ジャックマンの演技がものすごく下手に見える。イアン・マッケランの演技さえもが安っぽく見えるのって、とてつもなく演出がヘタなんじゃないの?マグニートーって白昼の住宅地に登場させるようなキャラじゃないと思うけどね。その他の登場人物も適当に出しましたって感じで、
映画評 「みんなのうた」鑑賞 第5代ヘイデン=ゲスト男爵ことクリストファー・ゲストのモキュメンタリー作品「みんなのうた」を観る。彼のこの前の作品「ドッグ・ショウ」はいまいちピンとこなくて、どんな内容だったか正直覚えていないくらいなんだけど、こいつは面白かった。 フォークミュージックのプロモーターが死去したことで、彼に世話になったバンドたちが再結成してコンサートを行うまでの姿を追った作品で、よく観てないと冗談なんだか真面目なんだかよく分からないような、ひたすらシュールなジョークが続いていくところは「ドッグ・ショウ」と同じ。出演者はゲスト自身のほかに、ユージン・レヴィやマイケル・マッキーン、ハリー・シェアラー(スパイナル・タップだ!)などなど、ゲストの作品ではおなじみの面々が顔を揃えている。 特徴的なのはコメディなのに底辺には徹底したペーソスがあることで、それを象徴してるのがレヴィとキャサリーン・オハラが演じるミッチ&ミッキーというフォークデュオ。ずっと前に別れた彼らの片方は平凡な主婦生活を営み、片方は精神を病んでしまっている。そんな彼と彼女が久しぶりに再会して歌をうたう姿ははかなくも美しい。コンサートが成功に終わった
映画評 「スパイダーマン3」鑑賞 やっと観てきた。劇場で映画を観たのって久しぶりだなあ。 確かに世間一般で言われているように、「まあまあの映画」かなって感じ。登場人物が多すぎるせいで内容が散漫なものになってしまい、ストーリーにメリハリが欠けているような気がする。ステーシー親子は出てくる必要なかったんじゃないかと。ブライス・ダラス・ハワードって思ったよりもブスだっだし。グウェン・ステーシーってもっと清純なイメージがあるんだけどな。でもとりあえずディラン・ベイカーが出ていたのには満足(あとブルース・キャンベルも)。 今回の悪役ですが、ヴェノムって原作だとあまり面白くないキャラクターだと思うんだけど、それなりにうまく映像化してまとめていたかと。もっと大柄だと良かったんだけどね。あのサイズだとジャイアンよりもスネオといった感じで威圧感ないし。サンドマンはいい俳優を使っているからそんなに文句はない。演技するシーンは少なかったけど。もしさらなる続編が作られるとすれば、90年代のゴミキャラであるカーネイジは絶対出して欲しくないなあ。ぜひディラン・ベイカーをトカゲ男にして、ミステリオあたりとタッグを組ませるとか。 前作同様に、アクショ
映画評 「The U.S. vs. John Lennon」鑑賞 公民権運動に関わったおかげでアメリカ当局に睨まれたジョン・レノンを扱ったドキュメンタリー「The U.S. vs. John Lennon」を観る。 つまんね。 レノンは平和を愛しました・反戦活動をしました・他の活動家と仲良くなりました・おかげでニクソンやフーバーに嫌われました・盗聴や尾行をされました・パスポートをとりあげられそうになりました、などと既に聞いたことのある話がただ紹介されていくだけ。目新しいことは殆ど聞けない。せめて「マーク・チャップマンはFBIに洗脳されていた!」くらいの新説(?)は聞きたかったぞ。これじゃヒストリー・チャンネルの特集番組レベルじゃん。 当時について語る人たちも、オノ・ヨーコをはじめG・ゴードン・リディやノーム・チョムスキー、ゴア・ヴィダルなど、まあ、予想された面々ばかり。ベトナム戦争とイラク戦争を対比するようなコメントが一切ないのも個人的には不満。この作品を観て感じたことがあるとすれば、 俺はヒッピーが嫌いだ ということくらいかな。ジョン自身は自分のことをピースニクと呼んでたけど。記者の前でベッドに入るパフォーマンスなんかしても、実際にデモに参加してア
映画評 「兵士トーマス」鑑賞 こないだクライテリオン版DVDが発売になった1975年の映画「兵士トーマス」こと「OVERLORD」を観る。原題の「OVERLORD」とは悪魔にそっくりな宇宙人のこと…では当然なく、 第2次世界大戦におけるノルマンディー上陸作戦のコードネーム。イギリスの片田舎から徴兵された素朴な青年のトーマスが、軍隊で訓練を受けてノルマンディーへと送られていくさまを追った内容になっている。 軍隊における生活の描写が物語の大半を占めていて、冒頭の宿舎のシーンはちょっと「フルメタル・ジャケット」を連想させる。撮影監督のジョン・アルコットはキューブリック作品の常連でもあるそうな。戦争映画なんだけどドンパチやるようなシーンはほとんどなく、軍隊および戦争という非日常的な状況に身をおいた主人公の孤独さがよく表現されていて、むしろ雰囲気はアート映画に近い。「西部戦線異状なし」に通じるものがあるかな。そしてトーマスには常に死の予感がつきまとっており、村で少女と恋に落ちても、家族に手紙を書いていても、もう2度と彼女たちに会えないことを彼は感じ取っている。そして最後に彼は「もう僕には何も残っていない」と語って戦地に向っ
映画評 「FAST FOOD NATION」鑑賞 最近は日本でも食肉の不衛生さが暴露された騒動があったけど、アメリカのファストフードのヤバい裏側を暴いたエリック・シュローサーのベストセラー「ファストフードが世界を食いつくす」にリチャード・リンクレイターがストーリーをつけて映画化した「ファスト・フード・ネイション」を観る。脚本にはシュローサーも関わっており、プロデューサーはなぜかあのマルコム・マクラーレン。 原作はファストフードの不衛生さや精肉工場の労働環境の悪さ、ファストフード店が強盗に狙われやすいことなどについて多角的な方面から解説し、非常に興味深い内容になっていたものの、多くのテーマを取りあげたことでやや散漫な印象を与える本だったと思う。それが映画になってストーリーがついたことでもっと統一感が出たかというと、実はそうでもなくて、精肉工場を視察に来たファストフード会社の社員、その工場で働くメキシコからの違法移民、そして近所のファストフード店で働く学生の3者を中心に陰気な話が、あまり絡みあうこともなく淡々と続いていく作品になっている。 出演はグレッグ・キニアをはじめボビー・カナベイルやカタリーナ・サンディーノ・モレノ、ルイス・ガスマン
映画評 「カスパー・ハウザーの謎」鑑賞 新作「RESCUE DAWN」が今度やっと公開されるヴェルナー・ヘルツォークの初期の作品「カスパー・ハウザーの謎」を観る。 日本でも有名なカスパー・ハウザーの謎についてはウィキペディアあたりを読めば分かるが、この作品では彼にまつわる陰謀論などは殆ど取りあげられず、長い監禁状態から突然としてドイツの町なかに置き去りにされたカスパーの姿をひたすら淡々と追っていく。主人公がアグレッシヴでなく受動的という意味での「アギーレ」や「フィッツカラルド」よりも「神に選ばれし無敵の男」に通じるものがあるかな。カスパー同様に精神状態がアレだったミュージシャンのブルーノ・Sが演じるカスパーは非常に印象的なものの、いかんせん話にメリハリがないのがキツい。「文明社会におけるタブラ・ラサな人物」というテーマが奥にあるんだろうが、ヘルツォークが2年前に撮った大傑作「アギーレ」(こないだポスター買っちゃいましたよ)に比べるとひどく地味な感じがするのは否めない。室内や市街地での撮影が多くてヘルツォークの素晴らしい自然描写もあまり見られないし、音楽もポポル・ヴーではないのが残念なところ。 IMDBなんかではやけに高
映画評 「夕日のギャングたち」鑑賞 セルジオ・レオーネの「Giù la testa 」こと「Duck, You Sucker」こと「A Fistful of Dynamite」こと「夕日のギャングたち」を観る。レオーネの映画って邦題で損をしているようなところがあると思うんだが、どうだろう。まあこの作品は原題も「伏せろ、間抜け」というアレな題名なんだけど。 レオーネの他のウェスタンにくらべて時代設定が新しく、革命をテーマにしているところが特徴か。時代的にはこれが「ワンス・アポン・タイム・イン・アメリカ」につながっていくわけですね。銀行強盗を模索する前半がどことなくコメディ・タッチなのに対して、メキシコ革命が焦点になってくる後半は政治色が強くやや整合性に欠けるところもあるかもしれないが、時代の流れに翻弄される男たちの世界が十分に満喫できる。元IRAの爆弾使いの主人公を演じるジェームス・コバーンがカッコいいのなんのって。クールに決めつつもマシンガンをぶっ放し、ダイナマイトをピンポイントで爆破させる姿は実に豪快。まあその反面「ウェスタン」や「続・夕陽のガンマン」における緊張感満点の撃ち合いなんかはなく、やや大味なところもある
映画評 「ボラット」鑑賞 観ちゃったよ。いや、とても笑える映画なんですけどね、でも素人へのドッキリと人種差別をネタにした笑いというのは、笑いつつも心の片隅でなんか罪悪感を抱いてしまって気まずい感じになってしまうんだよな。今後はこういう素人参加型のコメディが増えてくるんだろうね。日本だと素人にはモザイクとかかけて隠すけど、やはりアメリカでは後から出演者に「この映画を訴えるなよ!」というような誓約書を書かせたらしい(それでもしっかり訴えられてたけど)。あとカメラアングルなどから察するに、いくつかのシーンはヤラセが入ってるみたいだ。 ちなみにコメディ映画としてだけでなく、ロード・ムービーとしても秀逸な作品になっていて、外国人がアメリカ大陸を横断するときの不安さがよく伝わってきて面白い。彼らが途中で遭遇する中南部の田舎の人々はいわゆるレッドネックそのまんまで、これがアメリカのマジョリティの姿なんだよな。我々が普段ドラマで目にするようなNYやLAのオシャレな人々なんてのは、アメリカ人の実像から遠くかけ離れた姿だってのがよく分かる。 良くも悪くも内容がとってもアメリカンだから、この作品って日本じゃ大衆受けはしないだろう
映画評 「明日に処刑を…」鑑賞 こないだやっとアカデミー賞を取ったマーティン・スコセッシの実質的デビュー作「明日に処刑を…」をVHSでダラダラ観る。 これはスコセッシがロジャー・コーマン閣下のもとで作った映画で、1930年代の不況にあえぐホーボーたちが犯罪に手を出していくさまを描いたもの。反権力のスピーチとか扇動的な暴力描写とかカーチェイスとか、ジョン・キャラダインとバーバラ・ハーシーのセックスシーン(本当にヤッてたらしい)とか、エクスプロイテーション映画の要素がとりあえずいろいろ投げ入れられてる作品。コーマン先生のテイスト満載ですね。 でもいかんせん低予算映画だから全体的に作りが安っぽくて、照明もヒドいし役者のセリフまわしとかも単調で、スコセッシの初期の作品ということ以外は何も見るポイントはない映画かなあ。ラストの録り方は結構うまかったけど。でもこの1年後にスコセッシは傑作「ミーン・ストリート」を作るわけで、やはりこういう練習作品(?)を作るのが監督にとっては大事なことなのかと。日本のピンク映画みたいなものですかね。 ちなみにこないだ神保町でこの映画の日本公開時のポスターを発見したんだけど、当時は「スコシージ
映画評 「ザ・ファウンテン」鑑賞 「π」に「レクイエム・フォー・ドリーム」といった傑作を送り出した鬼才ダレン・アロノフスキーの待望の新作「THE FOUNTAIN」をやっと観る。元来は5年くらい前にブラッド・ピットとケイト・ブランシェットという「バベル」の2人が主演で撮影される予定だった作品で、オーストラリアに大掛かりなセットが既に建築されていたんだが、ピットが突然降板してクソ映画「トロイ」に出演することにしたため製作が中止になり、今回やっとヒュー・ジャックマン&レイチェル・ワイズ(監督の恋人)主演で完成にこぎつけたわけだ。ちなみに撮影場所はモントリオール。 尺は96分とそんなに長くない作品だけど、そのなかで3つの時代と場所を舞台にした物語が交差して語られていく(以下ネタバレ注意): 1500年:残虐な異端審問官の勢力に攻めたてられるスペイン。王女イザベラ(ワイズ)はマヤ地域の隠されたピラミッドに生えているという「生命の樹」を見つけるため、忠節なコンキスタドールのトマス(ジャックマン)に南米行きを命じる。多くの犠牲を払いながらもついにピラミッドを発見したトマスだが、そこで彼が目にしたものは…。 2000年:末期ガ
映画評 「アートスクール・コンフィデンシャル」鑑賞 俺にとってオールタイム・ベスト第2位の映画「クラム」(第1位は「メトロポリス」ね)の監督であるテリー・ツワイゴフの最新作「アートスクール・コンフィデンシャル」を観た。あ、そういえば彼の前作「バッド・サンタ」はまだ観てねーや。 これはツワイゴフの前々作「ゴースト・ワールド」の原作者であるダニエル・クロウズのコミックを再び映画化したもので、「GW」同様にクロウズ自身が脚本に関わっている。作品の舞台となるのは題名通りアートスクールつまり美術学校で、芸術家になろうとする大志を抱いて入学した主人公が、一目惚れした女の子の心を自分のアートで勝ち取ろうとするものの、周囲には自分の作品がまったく認められず大きな失望を感じてしまう…というのが大まかな話。 4ページほどしかない原作は美術学校にいる典型的なタイプの人たちを鋭く描写したことで話題になったらしいけど、これが2時間ほどの映画になると、どの登場人物も典型的に描かれすぎているというか、奥の深さを感じさせない人物描写ばかりになっているのが残念。クラスメイトに酷評されてどんどん暗黒面に堕ちていく内気な童貞の主人公(アンソニー・ミンゲラの息子だ)とか
映画評 「LESSONS OF DARKNESS」鑑賞 ヴェルナー・ヘルツォークの1992年の作品「LESSONS OF DARKNESS」を観た。 これはこないだの「THE WILD BLUE YONDER」と似たコンセプトの作品で、地球にやってきた宇宙人が人間たちのことを観察するという内容のもの。ヘルツォーク自身はこれはSF作品だと言ってるようだけど宇宙人たちが登場するわけでもなく、ナレーションもごくわずかで実際にはドキュメンタリーに非常に近いものになっている。 そして話の舞台となるのは第一次湾岸戦争後のクウェートおよびイラク。一面が茶色い砂漠のなかで爆撃によって破壊された巨大アンテナ、流出した原油によってできた湖、イラク軍の拷問の器具などが、オペラ音楽にのせて淡々と映されていく。話の後半は油田での消火活動にあたる人々に焦点があてられ、原油が雨のように降り注ぎ巨大な火柱が吹き荒れるなか、黙々と作業を続けていく消防士たちが登場する。 これらの映像は、戦争という惨事によって生み出されたとはいえ、実のところ非常に美しい。単なるドキュメンタリーもしくはプロパガンダ映画とは明らかに異なった作品なんだが、ヘルツォークがこれを通じて何を訴えた
映画評 「狩人の夜」鑑賞 古典的傑作「狩人の夜」を観る。 いいなあ、こういう映画。何と言っても詐欺師かつ殺人鬼を演じるロバート・ミッチャムの演技が凄い。右手に「LOVE」左手に「HATE」というイレズミをした彼が、黒のスーツにパリッと身を固めつつ、バリトンの効いた声で信仰について語りながら善良な人々を騙していくさまは実に圧倒的。天性の詐欺師というのはこういった感じで人を欺いていくんだろうね。 彼の毒牙にかかる寡婦のシェリー・ウィンタースもこの頃は若くて非常に綺麗。ミッチャムの犠牲となり湖の底で冷たくなってゆらぐ姿も妖しく見えるほど。彼女がいなくなって取り残された子供たちがミッチャムの魔の手から逃れる部分はちょっと中だるみするけど、後半になってからはライフルを抱えたリリアン・ギッシュとミッチャムによるせめぎ合いが見応えあり。単なる勧善懲悪の物語ではなく、子供に残る精神的トラウマなんかもうまく表現しているところもいい。 あと照明の使い方も非常にうまくて、特に寝室のシーンで尖った天井に映える光と影のコントラストがとても象徴的でいい感じ。こういう演出は最近のカラー映画では滅多に見られなくなっちゃいましたね。
映画評 「The Aristocrats」鑑賞 超過激手品師コンビ「ペン&テラー」の片割れ…というよりもレジデンツやハーフ・ジャパニーズの協力者ということで俺が尊敬してやまないペン・ジレットが企画&製作したドキュメンタリー「The Aristocrats」を観た。 これは何十年も前からコメディアンたちの間で語られているという伝説的なジョークを扱ったもので、このジョークの基本的な構成は次の通り: 1、芸能エージェントのところに、1人の男性がやってきて「うちは家族4人でパフォーマンスを披露するんです」と自己紹介する。 2、「どんな芸をやるんだい?」と芸能エージェントが尋ねる。 3、男が芸の説明をするか、もしくは家族と一緒に実際に芸を披露する。この芸は想像を絶するくらいに下品なもので、スカトロや近親相姦、獣姦など何でもありの、とにかく卑猥な芸として紹介される。 4、驚いた(もしくは興味をもった)芸能エージェントが「それで君らの名前はなんていうんだ?」と尋ねる。 5、男が陽気に「「貴族たち(The Aristocrats)」です!」と答える。 ・・・ただこれだけ。これだけの構成をもとに、コメディアンたちは自分流のアレンジ(特
映画評 「影なき狙撃者」鑑賞 今まで観てなかったジョン・フランケンハイマーの政治スリラー「影なき狙撃者」を観た。 カルト的人気を誇っている作品だが、確かに面白い。1962年という冷戦のまっただ中の時代によくこういった作品を作ったよなあ。冒頭の悪夢のシーンも非常に独創的で見事。ジェシカおばさんことアンジェラ・ランズベリーの鬼気迫るママさんぶりもいい感じ。共産圏に拉致されて洗脳されて帰ってきた人、というのはある意味とっても現代的なプロットなんだけど、さすがにそれを日本で映画化したりしたらヤバいだろうなあ、などという野暮なことをちょっと考えてしまった。 フランク・シナトラ演じる主人公の洗脳がうやむやになってしまうこととか、ジャネット・リーの役柄がいまいち理解できないような点もあるものの、全体的には非常に面白い作品。フランケンハイマーというと駄作「レインディア・ゲーム」しか思い浮かばなかった俺ですが、昔はこういう作品を撮ってたんですね。 ジョナサン・デミによるリメイク(ひでえ邦題のやつ)も今度観てみよう。