映画評 「Bloody Nose, Empty Pockets」鑑賞 年の初めにはアートムービーを。昨年批評家に高い評価を得たドキュメンタリー。 ラスベガス郊外にある「Roaring 20's」というちっぽけなバーが舞台で、そこが店を閉じることになったので常連が集まって最後のときを楽しむ姿を、昼間から明け方まで18時間に渡って追ったもの。バーで寝泊まりしている元俳優のいい顔のオッサンを皮切りに、いろんな客がやってきて他愛もない話をただ繰り広げていく。バーテンダーが途中で交代するとか、バーテンダーの息子がビールを盗むといった出来事も途中であるものの、特に大きな盛り上がりもなく、しんみりした展開もなしに与太話が続くだけ。 トランプのことが言及されたり、元兵士の客が戦場での話をしたりするものの、政治的なトーンも特になし。題名のように殴り合いが起きるわけでもなく、金が払えない客が出るわけでもない。ただ客が酒を飲んでだべってるだけ。おれ酒も人付き合いも苦手なのでこういうバーに行くことはまずないのですが、常連の支払いってどうなってんだろうな。バーテンダーが何も言わずに酒を振る舞ってるように見えるのだが。 なおネタばらしをすると、これ実は現実の話ではなくて撮影も
映画評 2020年の映画トップ10 2020年は公私にわたってヒドい年でしたが、映画の鑑賞にあたってはやはり公開の延期や配信でのリリースが増えて、劇場に足を運んだ回数が激減した1年であった。在宅の機会が多かったので年間で視聴した本数は例年よりも多かったはずだけど、やはり年のはじめに劇場で観た作品の方が印象に残っているような。配信ものは今となってはオチを覚えていないものもいくつか。あと尺が短いもの(「グレイハウンド」とか)のほうが家で観るのには適しているというか、集中して鑑賞できたと思う。そんな環境下でしたが、昨年同様に上位5位と下位5位を順不同で観た順に並べていく。 <上位5位> ・「Monos」 これ結局日本で公開したの?独特で美しい高原の景色を背景に、野生化していく少年兵たちの姿が印象的だった。 ・「The Personal History of David Copperfield」 例によってアレな邦題をつけられて日本では1月公開だそうな。シニカルなアーマンド・イアヌーチの作品にしては珍しく、主人公が不遇な環境にもめげずに奮闘する元気いっぱいの物語。どの役をどんな肌の色の役者が演じたっていいだろ、という証明でも
映画評 「ワンダーウーマン 1984」鑑賞 公開されたばかりだけどいろいろ書きたいことはあるので、以下はネタバレ注意。 * パラダイス・アイランド セミッシラから人間の世界にやってきたダイアナのカルチャー・ショックが重きを占めてちょっと頭でっかちな印象があった前作に対し、今回はダイアナも人間の世界に慣れてるし、アクションシーンも洗練されたものになって前作よりも優れた出来になっていた。 * 1984年が舞台ということで80年代カルチャーが大々的にフューチャーされて、アクションシーンなんかも80年代のブロックバスターを意識したものになってるかな。冒頭のショッピングモールまでのドタバタはリチャード・レスターの「スーパーマンIII」の冒頭によく似てると思いました: * しかしゲーセンに1987年発表の「オペレーション・ウルフ」があったり、83年に解散したマイナー・スレートのポスターが貼ってあったりと時代考証が甘いぞ。当時の日本にガストはなかったし。いや別にどうでもいいんですけど。 * 願いを叶える石というチート的なアイテムの登場は賛否両論あるかもしれないが、それもまた80年代的な荒唐無稽さがあっていいんじゃないですか。しかし
映画評 「The Burnt Orange Heresy」鑑賞 そこそこ良い評判を聞いていたサスペンス。原作は「コックファイター」と同じ作者による1971年の小説らしいが、うまく話の内容を現代に置き換えている。 舞台はイタリア。才能はあるものの過去の過ちにより活躍の場を絶たれた美術評論家のジェームズ・フィゲラスは観光客相手のレクチャーを行なって暮らしていたが、バーニスという女性と出会って恋仲になる。そして彼はキャシディというアートディーラーに招かれてバーニスとともに彼の屋敷に向かうのだが、そこでキャシディはジェームズに、隠遁した伝説の画家ジェローム・デブニーが彼の敷地に住んでいることを伝える。そしてデブニーにインタビューを申し込むふりをして、彼が描いているらしい絵画を手に入れるようキャシディはジェームズに依頼する。これは自分の名声を取り戻すチャンスだと考えたジェームズはその依頼を受けるのだが…というあらすじ。 アートと批評家の関係についてのレクチャーから話が始まるので、アート業界を皮肉った内容になるのかと思ったら必ずしもそうではなく、スタイリッシュなサスペンスというわけでもなくて、自分の野望に追い込まれる男の物語といったところかな。完全にお互い
映画評 「PENINSULA」鑑賞 「半島」こと「PENINSULA」は英題で、邦題は「新感染半島 ファイナル・ステージ」で来年1月公開?邦題から分かるように日本でもヒットした「新感染 ファイナル・エクスプレス」の続編。監督は前作と同じくヨン・サンホだが、キャストは一新されている。以下はかなりネタバレ注意。 舞台は前作から4年後。韓国はゾンビが蔓延する土地になり、世界から隔離された国となっていた。元韓国軍兵士のジョンソクは隔離前に国外へ脱出できたものの、脱出する船のなかで姉と甥をゾンビによって殺され、今は香港で市民権も与えられずにあてもなく暮らしていた。そんなある日、彼は裏社会の人間に、韓国で乗り捨てられたトラックにUSドルが大量に積まれているという話を聞き、韓国に潜入してそれを奪還してくるよう依頼される。そこでジョンソクは義兄(姉の夫)たちとともにインチョンへ潜入するが、そこではゾンビに加えて韓国に残された民兵集団の631部隊が跋扈していた…というあらすじ。 (そもそも4年のあいだ、大量のゾンビたちは何を喰って生き延びてたんだ?という野暮な質問はなしにする。) これ前作の評価が高かったのは、釜山に向かう列車という
映画評 「HAPPIEST SEASON」鑑賞 米HULUのオリジナル・ムービーで、まあ名前から分かるようにクリスマスをテーマにしたロマンティックコメディ。 アビーとハーパーは街で一緒に暮らすレズビアンのカップル。クリスマスに帰省するハーパーはアビーに一緒に自分の実家に来るように誘うが、実はハーパーの一家は由緒ある保守的な家庭で、父親は市長に立候補を検討しており母親もハイソなタイプ、ふたりの姉ともハーパーはあまり仲が良くなかった。そんな一家だったからハーパーは自分がレズビアンであることを実は明かしておらず、アビーにもただのルームメイトとして振る舞うように懇願する。恋人と親密になれずその家族にも冷遇されて落ち込むアビーだったが、さらにハーパーの元彼氏と元彼女まで現れて…というあらすじ。 まあユリユリなカップルが災難に巻き込まれ、一時はケンカするもののやがて再びお互いの愛を確かめ合う…という王道のようなストーリーが繰り広げられる映画。ホリデー・ムービーだから最後はこれでもか!というくらいの大団円を迎えたりするのですが、いいんだよそれで!このしみったれた2020年の最後(11月だけど)にこんな映画があったって!というわけで現地の視聴者
映画評 「THE NEW MUTANTS」鑑賞 FOXの「X-MEN」系列の作品でありながらディズニーの買収騒動に巻き込まれて2年間も公開延期になってたもので、冒頭にFOXのおなじみのファンファーレが鳴るのに出てくるロゴが「20世紀FOX」ではなく「20世紀スタジオ」となっていたのには1つの時代の終わりを感じてしまったよ。以下はかなりネタバレしてるので注意。 ネイティブ・アメリカンのダニエル・ムーンスターは超常的な存在によって居住地が破壊され、唯一の生き残りとして病院施設に収容される。そこではセシリア・レイズ医師の指導のもと、4人のティーンが暮らしていた。ダニエルは自分が他の4人と同じく特殊な能力を持ったミュータントであることを告げられ、Xメンのようになるべく自分たちの能力をコントロールすることを学ぶため施設に収容されていると伝えられる。しかしレイズ医師の行為はなにか不自然なものがあり、さらには施設内では不気味な現象が起きるようになるのだった…というあらすじ。 原作は80年代に登場した同名のコミックで、次なる世代のXメン候補として集められた若きミュータントたちの活躍を描いたもの。90年代にアーティストがロブ・ライフェルドになった
映画評 「TOTALLY UNDER CONTROL」鑑賞 アメリカで21万人以上の死者を出しているコロナウィルスことCOVID-19のパンデミックに対するトランプ政権の対応のマズさを暴いたドキュメンタリーな。 監督はサイエントロジーを扱った「ゴーイング・クリア」のアレックス・ギブニーなど3人が関わっていて、パンデミックに対応した医療関係者やCDC(アメリカ疾病予防管理センター) のスタッフにカメラを送りつけて、遠隔から行ったインタビューをもとに、今年のはじめに中国でウィルスの発生が報じられてからアメリカでは何が起きていったのかが時系列に沿って語られていく。2時間と長めの尺だが、要点はつまり: * CDCの現場スタッフは優秀で、みんな頑張った * でもCDC(の上の保健福祉省)のトップが政権の顔色をうかがって、強い対策を提言しなかった * トランプ政権の対応は無能だった といったもの。オバマを含む歴代の大統領はパンデミックが起きたときに備えたマニュアルを作成していたし、2019年にも中国からのウィルス発生を予想したCRIMSON CONTAGIONという模擬訓練が保健福祉省で行われ、アメリカの対応の問題点などが指摘されていたものの、
映画評 「ARCHIVE」鑑賞 イギリスからの低予算SF。あらすじはネタバレ注意。 舞台は近未来の山梨県(いやホントに)。科学者のジョージは人里離れた研究施設でAIの開発に打ち込んでおり、交通事故で亡くなった妻の性格を模したAIを搭載したアンドロイドの開発に没入していた。彼は最初は5歳児ほどの知能を備えたもの、それからティーン並の知能を備えたアンドロイドを製作し、ついにはほぼ完璧な3号機を完成させようとしていた。しかしジョージの真の目的はAIの独自開発ではなく、亡き妻の性格がそのまま保存されている(そういうことをするサービスがあるらしいの)アーカイブを、その有効期限が切れる前にアンドロイドにコピーすることだった…というあらすじ。 いま流行のAIものと言ってしまえばそれまでなのだけど、AIを搭載したアンドロイドが3体あるのが特徴的で、彼女(?)たちはロボット3原則なぞ知らね、と人間的に振舞う。特にティーンの知性を持った2号機は自分よりも優れた3号機に対して複雑な感情を抱いており、実は彼女がいちばん感情移入できるキャラクターだったりする。 ジョージが暮らすのは山梨県にある研究施設という設定だが、郊外の撮影はハンガリ
映画評 「FIRST COW」鑑賞 今年の評判いい映画を引き続きチマチマと。みんな大好き製作会社A24の新作(でもあそこの「THE LIGHTHOUSE」の日本公開はどうなったんだろう?)。4:3の画面比というのもA24っぽいよなあ。 舞台は1820年のアメリカ西部。ビーバーの毛皮を求めてオレゴンにやってきた猟師たちの料理人をしているクッキーは、ロシア人を殺したとかで逃げている中国人のルーをかくまい、逃してやる。その後再開したふたりは一攫千金を狙い、地域の首長であるイギリス人が唯一所有している乳牛のミルクを夜間に忍び込んで盗み、それを使ってケーキ(スコーンみたいなやつね)を作って市場で売ることにする。ミルクを使ったそのケーキは飛ぶように売れてふたりはいい儲けを手にするが、やがてその評判は首長の耳にも届き…というあらすじ。 いちおう西部劇なんだけど派手なドンパチがあるわけでもなく、内気な料理人と中国人の移民が夢を抱きながら、しがなく暮らしていこうとする小ぢんまりとしたドラマになっている。ケーキがふたりに転機をもたらす、という設定が面白かったな。ウィリアム・タイラーというミュージシャンによるギターのサントラがシンプルなが
映画評 「テネット」鑑賞 封切られたばかりなので感想をざっと。 * クリストファー・ノーランの作品のなかではエスピオナージ&逆回転ということで「インセプション」と「メメント」に近いかな。プロット的に連想したのはサイボーグ009の「時空間漂流民編」だったりしますが。初っ端のテロリストのシーンから音楽が大きすぎてセリフが聞こえないのもまたノーラン。 * もう最初から言ってしまうとね、プロットが理解できないと書くとシネフィルに白い目で見られるタイプの映画だとは思いますが、でもやはり分かりづらい映画だとは思う。正確に言うとプロット自体はまあ理解できるものの、もうちょっと物事を丁寧に説明してもバチは当たらなかっただろうし、そのほうが内容も面白くなってたのではないかと思う。 * 「プライマー」を連想させるタイムトラベルの機械なども、その仕組みとか目的とかについては圧倒的に説明不足なため、いろいろ疑問を抱きながら観る羽目になって最後まで待ってもカタルシスを得ることができなかったというか。冒頭からアクション続く一方で、それらが押し進めていくべき肝心のプロットが中心から抜けていて、目の前で起きている派手な展開が皮肉にも煩
映画評 「THE ASSISTANT」鑑賞 今年前半に高い評価を受けた映画をチラホラ観てまして、これもその1つ。 主人公のジェーンはニューヨークの映画製作会社で秘書として働く若い女性。オフィスで勤務して5週目になる彼女は夜明け前から誰よりも早く職場に向かい、掃除などの雑用をしてからデスクワークを行うのだが、同僚にも上司にもこき使われる始末。さらに会社の社長はオフィスに女性を連れ込んでいるらしく、社長の妻からは怒りの電話がかかってきて、その対応がまずいということで今度は社長に怒られることに。さらにはジェーンの「同僚」という名目で若い女性が突然に良い待遇でオフィスで働くことになったことから、セクハラを疑った彼女は人事部に相談に行くものの…というあらすじ。 朝から晩まで働くジェーンの1日を追った内容になっていて、87分という短い尺ながらもいろいろストレスの溜まる職場を疑似体験できるようになっています。ジェーンの上司は姿を見せたりはしないもののハーヴェイ・ワインスタインがモデルになっているらしくて、女優とかに性的交渉を迫りながら部下にはパワハラをして、本来ならそれを取締るべき人事部も社長の側に立っているためにジェーンの訴えも無視され
映画評 「THE KING OF STATEN ISLAND」鑑賞 ジャド・アパトウの最新作。「コメディというよりもドラマ」「ブレイク直後のコメディアンが主演(今回は「SNL」若手キャストのピート・デヴィッドソン)」、そして「尺が微妙に長い(137分)」というあたりが典型的なアパトウ作品といったところでしょうか。 デヴィッドソンの半自伝的な作品になっていて、脚本も本人が参加している。舞台は題名のとおりNY州のスタテン・アイランド。スコットは7歳のときに消防士の父親が火災現場で殉職して以来、母親と妹と暮らしている24歳の青年。本人はADD(注意欠陥障害)であるほかにクローン病を患っており、それを緩和するためにマリファナばかり吸ってハイになってるボンクラで、働いて自立する気などは毛頭なし。タトゥー・アーティストになるのが夢で友人の体とかに彫りまくってるものの、腕はイマイチだった。しかし妹が大学進学のために家を出て、母親が別の消防士と付き合い始めたことから、ついに自分も家を出ることになるのだが…というあらすじ。 ピート・デヴィッドソンの父親も911テロで殉死した消防隊員で、クローン病を患っているというのも本人と同じ。ただ本人と違ってスコットはコメディアン
映画評 「THE WAY BACK」鑑賞 「ミラクル」や大傑作「ウォーリアー」など、スポーツ感動もので定評のあるギャヴィン・オコナーの新たなスポーツもの。主演のベン・アフレックとは「ザ・アカウンタント コンサルタント」に続くタッグですな。 主人公のジャックは1年前に妻と別れて建築現場で働くアル中で、朝から晩までビールをグビグビ飲んで、運転中でも飲んでるような奴。しかし彼は高校時代は花形のバスケ選手であり、彼の恩師から母校のチームの監督になることを依頼される。当初は断るつもりだったジャックは酒を飲んで寝てしまったため断りの電話を入れることも出来ず、そのまま監督に就任する。彼の現役時代はプレーオフに進出していたようなチームも今は弱小集団と化し、最低限の数の選手たちが他校との試合に負け続けている次第だった。そんな彼らをジャックは熱意をもって叱咤し、試合に勝たせようとするのだが…というあらすじ。 まあスポーツものにおけるクリーシェは大体含まれていて、荒くれた指導方法とか、選手たちに熱意を持たせるところとか、最初コテンパンにされたライバル高へのリベンジとか、貧困家庭出身の生徒とか、主人公の暗い過去とか、その他もろもろ。でも流石に演出
映画評 「CAPONE」鑑賞 ジョシュ・トランクの久々の新作。トランクといえばファウンド・フッテージ超能力SF「クロニクル」で華々しくデビューし、スーパーヒーロー映画「ファンタスティック・フォー」の監督に抜擢され、さらには「スター・ウォーズ」のスピンオフ映画も監督することが内定していた人。しかし「ファンタスティック」の興行的および批評的な大失敗、さらに現場での振る舞いが問題視されてその評判は失墜したわけで、もう映画を撮ることは難しいんじゃないかとも思われてたが、しっかり復活したわけです。しかも内容は今までと違って、晩年のアル・カポネを主人公にしたもの。 アルカトラズ刑務所などに長年服役したカポネは40代の若さながら梅毒によって精神をやられており、彼を脅威と見なさなくなった政府によって釈放され、妻のメイたちと暮らすようになる。しかし彼の症状は日を追うごとに悪化していき、現実と妄想の区別がつかなくなっていた…というあらすじ。 内容はほんとこれだけ。痴呆老人と化したカポネが、妄想の世界にとらわれながら失禁したり脱糞したりして周囲に迷惑かけるだけの光景が、2時間弱のあいだにずっと続けられるだけなの。いちおうカポネが大金
映画評 「ARKANSAS」鑑賞 クラーク・デュークの初監督作。クラーク・デュークってあまり日本では知られてない役者で、代表作は「キック・アス」とか「HOT TUB TIME MACHINE」あたりか?小太りの童顔なので「未熟なオタク」役を演じてる印象があるけどもう30代半ばだし、子役出身なのでキャリアはすごく長いベテランなんだよな。そんな彼がジョン・ブランドンという作家の小説を映画化したもの。 麻薬の売人をやっているカイルは組織のボスである、フロッグという名の謎の人物の命令を受け、同じ組織のスインという男と合流して麻薬を南部へ運ぶことになる。途中で彼らは森林公園のレンジャーに尋問されてパニックに陥るが、そのレンジャーもまた組織の一員だった。そしてカイルとスインはレンジャーの部下として公園に住みつつ、各地に麻薬を運ぶ仕事をするのだが…というあらすじ。 まあ例によって仕事の途中にトラブルが起きて、それがさらなる問題を巻き起こしていくという展開。5章に分かれた形式をとっているのだが、2章と4章はフロッグの過去が描かれ、彼がいかに麻薬王へとのし上がっていったかが説明される。 全体的にフィルム・ノワールというかサザン・ゴ
映画評 「VIVARIUM」鑑賞 昨年の個人的ベスト映画の1つである「THE ART OF SELF-DEFENSE」のイモージェン・プーツとジェシー・アイゼンバーグという黄金コンビ(?)の新作。冒頭から出資会社のロゴが10社くらい続けて流れるのに驚くが、ヨーロッパのいろんな会社が関わってるみたい。以下はかなりネタバレしてるので注意。 ジェマとトムの若き夫妻は住む家を探しており、マーティンという奇妙な不動産業者に連れられてヨンダーという住宅地へと足を運ぶ。そこは同じ家が立ち並ぶ人気のない郊外で、そのうちの家の1つの案内を受けた二人は、マーティンに置いてけぼりにされたことに気付く。そして自分たちでヨンダーを出ようとした二人だが、どこに行ってもヨンダーを抜け出すことはできず、同じ家の前に戻ってきてしまう。こうして住宅街に囚われてしまった二人だが、食糧や日常品が入った謎の箱がどこからか送られてくるため、最低限の生活を送ることができた。そしてさらには赤ん坊の入った箱が送られてきて…というあらすじ。 脱出ものというよりも不条理SFホラーという出来になっていて、ジェマ達が具体的に何日間(何年間)ヨンダーで暮らしているのか、とい
映画評 「THE JESUS ROLLS」鑑賞 カルト人気を誇るコーエン兄弟の「ビッグ・リボウスキ」の(非)公式スピンオフ…って何を言ってるか分からないかも知れないが、要するにあの映画でジョン・タトゥーロが演じた変態ボウリング師ジーザス・クインタナを主人公にした映画をタトゥーロが監督したもの。コーエン兄弟はキャラクターの使用を認めた以外は一切製作に関わってないらしい。 「リボウスキ」でのジーザスは子供に露出行為を働いて逮捕された変態として紹介されてたが、さすがにそれだと主人公として扱えないと判断されたのか、あの事件はあくまでも誤解だったということが冒頭で説明される。それでもジーザス自体が犯罪を繰り返してる変態であることは変わりなくて、刑務所でのお務めからショバに出てきたジーザスが、弟分のピーティーに迎えられ、早速また車を盗んだりして放蕩な旅に出る…というあらすじ。 というかこれ、フランス映画の「バルスーズ」のリメークなのですよね。男ふたりが田舎をぶらついて女性とかたっぱしから寝ていくというやつ。俺あれなぜか「さらば青春の光」と併映で早稲田松竹で観ましたが、女性器に銃を突っ込んで自殺する女性のシーン以外は殆ど記憶に残ってないような
映画評 「PALM SPRINGS」鑑賞 サンダンス映画祭において史上最高の額で購入された作品…なのだが米HULUへの配信ストレートだったりする。これ内容は何も知らないほうが楽しめると思うので、以降はネタバレ注意な。 舞台は当然カリフォルニアのパーム・スプリングス。妹の結婚式のためにそこを訪れていたサラは、ナイルズという奇妙な男性と出会う。式場を抜け出したふたりはねんごろな仲になるが、突然何者かにナイルズが弓で射たれてしまう。負傷したナイルズは近くの洞窟の中に入り、サラにはついて来るなというものの、サラもその洞窟に入ってしまう。そして次の朝に目を覚ましたサラが見たものは、妹の結婚式の準備をするスタッフたちだった。つまりサラは同じ日を何度も繰り返すタイムループのなかに入り込んでしまっており、アンディは彼女よりも前に同じループのなかに入っていたのだ。こうして同じ日を何度も繰り返して経験することになったふたりは、あり余った時間をどうやって使うか考えるのだった…というあらすじ。 つまりアメリカでは映画ジャンルとして確立された感のある「恋はデジャ・ブ」ものの最新版ですかね。今作のポイントは同じ日を繰り返すループに入ってるのが2人いる
映画評 「グレイハウンド」鑑賞 こないだiPhone買い換えたので、アップルTV+の映画が観られるのだよ。トム・ハンクス主演のWWII映画。 初めて駆逐艦の艦長を務めることになった主人公が、大西洋を横断してアメリカからイギリスへ物資を運ぶ船団の護衛任務に就くというもので、当然ながら途中ではドイツ軍のUボートが船団を狙って目を光らせているため、いかに奴らを撃破して船団を守れるか…というあらすじ。 91分という短い尺のなか、最初から最後までUボートが攻めてくるという内容のため観ていて飽きさせない。艦長はろくに食事をする描写がされていて(それでも美味そうな食事が出てくるのがアメリカ軍だなあと)、Uボートを一隻沈めたら急いで船団の護衛に戻って、そしたら新たな敵が現れて…とてんてこまい。ちょっとタワーディフェンス系のアプリゲームを連想してしまったよ。 さほど製作費は多くないらしいが、駆逐艦vs潜水艦の戦いはテンポ良く迫力感もあり、急旋回して魚雷を避けながら対抗砲火を打ち込む流れがリアルに描かれている。ドイツ軍側の兵士は登場しないため駆け引きのドラマとしてはちょっと弱いかもしれないが、鉛筆やコンパスといったアナログな道具を
映画評 「Welcome to Chechnya」鑑賞 HBOで放送されて高い評価を得ていたドキュメンタリーをBBC経由で鑑賞。ロシア連邦の一部であるチェチェン共和国における、同性愛者への迫害を扱ったドキュメンタリー。 チェチェンでは2017年ころから同性愛者の迫害が始まり、彼らを不純なものと見なすラムザン・カディロフ首長のもと、同性愛者の暴行・誘拐・拷問・法的な手続きのない処刑などが行われている。実際に彼らがボコボコにされる映像が何度か登場するし、有名な歌手も誘拐されて行方不明になっているそうな。そんな迫害を受けている彼らを助けようとする、デビッド・イスティーフをはじめとする活動家たちを追った内容になっていて、まずはチェチェンから連れ出してモスクワにある極秘のシェルターにかくまい、海外の団体の協力を得て国外に脱出させるというネットワークが出来上がっているらしい。 いちおうモスクワでの同性愛者の扱いはチェチェンに比べれば緩いようなのだが、プーチンがカディロフを好き勝手やらせているため、チェチェン警察からは脱出した同性愛者およびその家族に脅しの連絡が届き、モスクワにおいても彼ら(さらにはその家族)の身は安全ではない。よって必要であればほん
映画評 「FAMILY ROMANCE, LLC」鑑賞 鬼才(変人)ヴェルナー・ヘルツォークがいつの間にか日本で撮影していた映画で、アメリカのマイナーな配信サービスMUBIでプレミア公開されてたのを視聴。 話の主人公となるのは「レンタル家族」サービスを営む「ファミリーロマンス社」の社長である石井祐一。これ実在する会社の実在する社長で、以前にはコナン・オブライエンが日本で番組撮影したときにも登場してたみたい。この会社は社員を「代役の家族」として貸し出し、その社長や社員は顧客の要望に応じて様々な役を演じていく。 話の中心になるのは、父親がいない、まひろという名の少女の父親を石井が演じるパートで、石井と少女のやりとり、およびまひろの母親とのやりとりが作品を通じて描かれている。それに加えて石井が演じるのが、「ミスをした人」の代わりに上司に怒られる役とか、アイドル気取りの女性を歌舞伎町で撮影するカメラ小僧など。 家族代行サービスを営む人、という点ではヨルゴス・ランティモスの「ALPS」に設定が似てなくもないが、あれよりはもっと通俗的な役をロマンス社の社員が演じてるかな。いちど宝くじで大金を当てた女性が、あの感動が忘れられないとして、再び当選のお
映画評 「The Personal History of David Copperfield」鑑賞 iTunes UKに残高があったので視聴。アーマンド・イアヌーチの新作で、チャールズ・ディケンズの「デイビッド・コパーフィールド」を映像化したもの。 あらすじは原作に忠実なものの、主人公デイビッドがドーラと結婚しないなど、それなりに脚色はされているみたい。父親亡きあとに生まれたデイビッドが冷酷な継父に労働に出され、貧しいミコーバー氏と暮らし、大叔母の恩恵を受けるもののまた極貧の生活に戻ったりする波乱の人生が語られていく。 イアヌーチ得意の社会風刺は抑え気味で、ヴィクトリア朝時代の貧困は現代の貧困に通じる…みたいな揶揄も特になし。その一方で彼の作品に通じるドタバタ演技が冴えていて、余計な部分は端折ってストーリーがグイグイ進むなか、登場人物が文字通り走り回って、逆境にもめげず逞しく生きる人々が活き活きと描かれている。 少しデフォルメされたセットとか、プロジェクションを多用した演出などはテリー・ギリアムのファンタジー映画を少し連想させました。あとデヴ・パテルが主役を演じる波乱の人生物語、という意味では「スラムドッグ・ミリオネア」を彷彿とさせるかな。 主人公デイビッドをインド系のデヴ・
映画評 「THE LAST BLACK MAN IN SAN FRANCISCO」鑑賞 ブラックライブスマター!、というわけではないが良い評判を聞いていたので。日本では「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」の邦題で10月公開だとか。 舞台はその名の通りサンフランシスコ。気の優しい青年のジミーは友人で劇作家志望のモントの家に暮らしていたが、ジミーの祖父が建築したというヴィクトリア様式の家を慈しみ、足繁くその家の前まで通っていた。やがてその家の住人が家を去ることを知ったジミーは、モントとともに家に不法に住み着くことにするのだが…というあらすじ。 出演者の大半は黒人だが必ずしもブラック・ムービーという内容ではなく、いろいろな側面を持ったサンフランシスコが変わりつつあるなか、古い家にこだわるジミーとモントの生活が淡々と描かれていく。 じゃあ内容が退屈なのかというとそうではなくて、映像がびっくりするくらいに美しいんですよね。海に面したサンフランシスコの自然や、洋館のなかの綺麗なインテリアとかが丁寧に映されていて、ただ画面を眺めているだけでも飽きない作品であった。撮影監督のアダム・ニューポート=ベラって主に短編やテレビ番組を撮ってる人らしいけど、これからもっと注目されて
映画評 「VFW」鑑賞 著名なホラー映画雑誌「ファンゴリア」製作の映画。でもホラーではなくてサスペンスだった。 VFWというのはVeterans of Foreign Warsの略で、外国で戦った兵士たちの軍人会みたいなものかな。映画の舞台はこの軍人会が集うオンボロのバーで、ベトナムで戦ったフレッドが仕切るなか、さまざまな戦争を経験した仲間の軍人たちが与太話に興じていた。しかし世間ではハイプと呼ばれる凶悪な麻薬が蔓延しており、姉をハイプで亡くしたリズという少女が、地元のディーラーのハイプをすべて盗んでバーに駆け込んでくる。怒ったディーラーはハイプの中毒者たちにバーを襲うように命じ、フレッドたち元軍人はリズを守るため、というか自分たちを守るために籠城して戦うことになるのだった…というあらすじ。 設定的にはジョン・カーペンターの「要塞警察」に似ているし、カーペンターを彷彿とさせるシンセ音楽が多用されてるあたり、往年の70〜80年代低予算サスペンスっぽい作りにしてるなあ、という感じ。大量のジャンキーが老人(ひとり若者もいる)だらけのバーに押し掛ければあっという間にカタがつきそうなものだが、ハイプの中毒者はヘロヘ